UK雑記帖
学生時代の初めてのイギリス旅行から帰った私に起きたささやかな変化―――それは赤信号でも道路を横断するようになったことだ。 もちろん見通しのいい道路で車が来ないのを確認してというのが前提だが。
「Enter at your own risk」というのは、イギリスで危険だと思われるような場所にある看板の決まり文句。 「入りたかったら入ってもいいが、そのかわり何かあってもあなたの責任です」といった意味だろうか。 この小さな看板は崖っぷち、堤防、その他あちこちに立っているが、それを乗り越えて景色を楽しんでいる人は少なくない。 自分の足元は自分で注意したうえで入るのだ。
単なる「立入禁止」という日本式の看板と比べてみて欲しい。何か事故があっては…と景勝地に柵をはりめぐらし、それでも足りずに「立入禁止」の大きな看板を風景が見えないほどにたてまくる。 管理側の責任問題に発展するのを恐れて先手先手を打って、利用者を子供扱いしているとしか思えない。
先日も、大阪のある公園で「噴水に入るな」という看板が大きすぎて、噴水の中央にある美しい彫刻がすっかり隠れてしまっているという話題をテレビがとりあげていたが、これも同じ発想なのだと思う。 たかが公園の噴水、よっぽどのことがなければ溺死などするはずがないし、落ちて風邪を引いたからといって公園側を責めるなんてそれこそお門違いだ。
赤信号での横断にも日英の違いが如実に出ている。 イギリスでは健康な大人なら左右を見て車が来ないことを確認すれば、赤信号でも車道を渡ることなど常識だ。 ちゃんと危なくないように「自分の責任において」渡るのだ。 ところが日本ではどんなに車が来なかろうと、じっと歩行者は信号が青になるのを待ち続ける。 交通マナーが良いといってしまえばそれまでだが、彼らは青になったらなったで安心しきって渡ってしまう。 気のふれたドライバーがアクセル全開で突っ込んでくることがないともいえないのに。 信号機に絶対服従して自分の生命を預けてしまうのはいかがなものか。 信号が赤でも機会があれば注意しつつ渡り、青になっても気を抜かず、自分の身は自分で守る―――というのが大人のジョーシキではないだろうか。
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