妊婦受け入れ拒否/これ以上犠牲者を増やすな(10月25日付)
脳内出血を起こした妊婦が東京で8カ所の病院に受け入れを断られ、出産後に死亡した。地方ばかりか、医療水準や体制が最も整っているはずの東京でも産科救急医療が崩壊しつつあるという、危うい実態が現れた。それだけに事態はより深刻だ。
奈良県でも一昨年8月、出産中に意識不明になった妊婦が19病院に受け入れを拒否され、死亡した。これ以上、同じような悲劇を重ねてはならない。今回の事実経過をよく検証して教訓をくみ取り、緊急の救命を優先させるような条件整備など救急医療改善策を講じるべきだ。
10月4日土曜の夜、この妊婦の症状は差し迫っていた。1度は断り、約1時間20分後に引き受けた都立墨東病院は最初から受け入れて治療に全力を尽くすべきだった。
当初、墨東病院の当直の産科医は下痢や嘔吐(おうと)の症状から感染症を疑い、重大な脳内出血と認識せず、受け入れなかった。搬送を依頼した、妊婦のかかりつけの産婦人科医院は「脳内出血を疑い、緊急性を伝えた」としており、食い違っている。一刻を争う時のやりとりだ。どちらが正しいか、結論が出ないのではないか。ともかく危険な容体への認識の甘さが搬送を遅らせた。
墨東病院が受け入れを断った理由は第一に産科医の当直が研修医1人だけで、対応が難しいと判断したからだ。墨東病院の産科医はほかの病院を探したが、7つの大病院が新生児集中治療室の満床や専門医不在などを理由に断った。
墨東病院は、リスクの高い妊婦を引き受ける東京東部の総合周産期母子医療センターだ。常勤産科医の定員は9人で、夜間の当直は2人いるはずだった。しかし、産科医の退職が相次ぎ、現在は常勤が4人。研修医らを含めても、7月からは土日は2人の当直が組めなくなっていた。
深刻な医師不足と勤務医の激務が重なって、産科医療の地域拠点化が進んでいない。土日も2人の当直ができるようにするのは必要と分かっても、医師不足で難しい。それでも今回、妊婦を救おうと、かかりつけの医院と墨東病院が努力し続けた跡はうかがえる。医療機関の責任を一方的に問うのは酷に過ぎる。
墨東病院は「東京ER」に指定され、救急医療で実績がある。脳内出血の疑いが分かれば救急スタッフに相談して助けを求めるべきだった。
もともと東京は救急患者の収容不能状態が常態化していた。大都会ほどではないが、地方にも同じ問題がある。本県では昨年11月、交通事故の被害者が福島市内の4病院に計8回受け入れを断られ、死亡した。
今回の問題を受け舛添要一厚生労働相は24日、医師不足に対処するため「開業医など地域の人材を総動員してやるしかない」と述べた。実効性のある具体策を求めたい。
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