「ご飯をもう一口食べよう」と農林水産省が呼びかけている。国民一人一人が毎日一口余計に食べると食料自給率が1%上がるというのだ 11月末までの国産農産物の消費拡大月間のPR文句である。石破農相も、国民に食べてもらわないと「政府がどんなに騒いでもどうにもならん」というわけで宣伝に努めている。大ざっぱな計算であり、実行されるかどうか心許ないが、分かりやすい呼びかけではある 金沢の成巽閣に「一口残」と書かれた有名な書がある。幕末期に116歳まで生きた長老の言葉だと伝わる。昔から「腹八分目」が長寿の秘けつだったことの証ともいい、あるいは一口食べ残すつもりで、貧しい人に分け与える教えだともいう エネルギー換算で39%にまで下がった日本の食料自給率は確かに危機的な数字である。仮に食料輸入が止まると日本人の食卓は1日に、ご飯が茶碗2杯、焼き魚1切れ、焼き芋3本とリンゴ4分の1切れ程度になるとの計算もある。戦時中並みだ 飽食の時代に「もっと食べよ」といい、飢饉のあった藩政期の教えが「一口残せ」である。皮肉な話ではないか。
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