2002/04/10発信:一般向けニュース
■ ブロークン・ウインドーズ理論(ジェームス・ウィルソン、ジョージ・ケリング共著)
Broken Windows [日本語訳]
The police and neighborhood safety
By James Q.Wilson and George L.Kelling
訳:特定非営利活動法人日本ガーディアン・エンジェルス
監修:小宮信夫
論文(割れた窓ガラス ―警察と近隣の安全―)
ジェームス・ウィルソン、ジョージ・ケリング共著
1970年代半ば、アメリカ・ニュージャージー州は、市民生活の質の向上を目的とし、
“セーフ・アンド・クリーン ネイバーフッド プログラム”(安全で清潔な近隣計画)を28の市で立ち上げた。このプログラムの一部として、州は、警察官がパトカーから降りて徒歩でパトロール出来るように資金を供給した。州知事を含め州の役人らは、犯罪を減らす方法として徒歩でのパトロールを行うことに意気込んでいたが、一方多くの警察署長は、このプログラムに対して懐疑的であった。彼らの視点では、徒歩でのパトロールには信頼性がなかったのである。それは警察の可動力を減少させる、すなわち市民の要請に応えることが難しくなり、司令部によるパトロール警察官の制御力が弱まってしまうと思われていたのである。
多くの警察官もまた、違った理由からこの徒歩でのパトロールを嫌がっていた。それは重労働であり、寒い雨の夜も外にいなければならず、追跡して逮捕する機会を減らすものだったからである。徒歩でのパトロールを罰則として課す部署もいくつかあったほどである。安全確保活動の学者らは、徒歩によるパトロールが犯罪率に影響を与えるとは考えていなかった。一般の意見に譲歩するかたちをとっただけだ、というのが多くの学者の意見であった。
しかしながら、州が資金を供給してくれるので、地域の権威者らは従うことにした。
プログラムの開始から5年後、ワシントDCにある警察財団は、徒歩パトロール計画の評価を公表した。主としてニューアークで実行された実験の分析によると、誰も驚くことはないであろうことに、徒歩でのパトロールが犯罪率を下げることはなかった、と財団はまとめた。しかしながら、徒歩でのパトロールが実行された地域の住民は、実行されなかった地域の住民よりも身の安全を感じ、犯罪が減ったとさえ思うようになり、犯罪から身を守る手段の度合いを下げるようになったようであった。(例えば家中の鍵を掛けて家の中に閉じこもることを止める、など)
その上、徒歩パトロール地域の住民は、他の地域の住民よりも、警察に対して好意的な意見を持っていることが分かった。そして、警察官も、徒歩パトロールを行っているものの方が高く、また、住民に対して好意的な態度をとっていた。
この結果は、このプログラムに対して懐疑的だった人は正しかった、徒歩パトロールは犯罪には影響がなかった、ただ単に住民に以前よりも安全だと思わせるにすぎなかった、という証拠ともとれる。しかし、私たちそして警察財団の報告書の著者ら(ケリングはその中の一人なのだが)の観点では、ニューアークの市民は決して騙されていたわけではないと思われる。彼らはパトロール警察官が何を行っていたのかを知っていたし、それが車を用いたものとは違うことも分かっていたし、パトロール警察官が実際に地域をより安全なものにしているということも理解していたのである。
しかし、犯罪率が下がっていず、実のところ上がっているにも関わらず、一体どうしてその地域がより安全なものになり得るのであろうか。この疑問に対する答えを見つけるのには、まず、公共の場で何がもっとも人々を怖がらせるかを知っておく必要がある。
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