2008年10月26日 社説
[妊婦受け入れ拒否]
救命優先の産科体制を
脳内出血の症状を示した東京都内の妊婦が、都立墨東病院(墨田区)など八カ所の病院に診療を断られ、出産して三日後に死亡した。
奈良県で昨年と一昨年、受け入れを拒否された妊婦が死亡したり死産したりしたケースがあった。なぜ、その教訓が生かされなかったのか。今回、受け入れを拒否した病院は、いずれも名だたる大病院である。
高度な医療技術が集中している都市部でも、救急医療に十分対応できないという深刻な現実を見せつけられた。
とりわけ、産科医療の切り札といわれる総合周産期母子医療センターに指定されている病院ですら、急患の受け入れを制限せざるを得ない状況に、多くの女性や産科医療関係者の受けた衝撃は大きい。
今回、妊婦のかかりつけ医は墨東病院に受け入れを依頼した際、「頭が痛いと訴え七転八倒している」などと切迫した状況を伝えたと主張。一方、病院側は「下痢や嘔吐の症状から脳内出血との認識はなかった」とし、言い分に食い違いをみせた。
一刻を争う状況の中で、微妙なニュアンスを含め状況を的確に伝えることは、言葉のやりとりだけでは難しいのかもしれない。
実際、医師が治療のかたわらで、急患搬送の手だてを講ずるのには多くの困難と負担を伴う。
しかし、救急医療では、患者の容体を迅速かつ的確に把握することが必要だ。医療機関だけでなく、自治体との連携も含め効果的な対策が求められる。
受け入れを拒否した病院を批判するだけでは現実は改善されない。
墨東病院が受け入れを断ったのは、産科医の当直が研修医一人だけで、対応が難しいと判断したからである。産科医不足は全国的な問題だ。
訴訟になるのを恐れ難しい症例を避けるケースもある。実際に急患を受け入れた場合、十分な対応ができるのか、重い責任を抱えるのは事実だ。二〇〇五年度の厚労省の調査では、総合周産期母子医療センターの約七割が、満床などを理由に地域病院からの母体搬送を断ったという。地域周産期母子医療センターとして認定された病院が、医師不足のため妊婦の緊急搬送受け入れを休止する事例もある。
医療現場からは「重症事例も増えスタッフの負担は大きい」「自分たちが倒れてしまう」など悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
妊娠・出産というのは本来、新たな命を宿した幸福感に包まれるものだ。赤ちゃんの健やかな成長と可能性を信じているからこそ、母親は苦しい思いをしながらも一大事業をやり遂げる。
妊婦の受け入れ拒否は、現在、そういう立場にある女性に大きな不安を与えたに違いない。
産科医不足を解消するには、政治・行政が強いリーダーシップを発揮するしかない。当面の対策としては、産科医の待遇改善や女性産科医が子育てをしながら働けるような職場環境づくりが急務だ。
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