刑務所を出所した高齢者や障害者らの社会復帰を支援、促進するため、法務、厚生労働、農林水産など関係省庁が連絡会議を設置し、連携して対策に取り組み出した。
刑事司法の出口というべき更生保護はさほど重要視されてこなかったのが実情で、政府として本腰を入れるのは初めてだ。高齢化を背景に出所者の平均年齢が高くなっており、再犯防止の観点などからも矯正と福祉のはざまを埋めることが急務である。
法務省などによると、新たに刑務所に収容される受刑者に65歳以上の高齢者が占める割合は年々増加している。06年は5・7%で、10年間に倍増した。厳罰化で刑期が長くなったり、仮釈放が認められにくい事情もあり、出所時の年齢は高くなる一方で、無職者も増える傾向にある。親族らの受け入れ先がないまま満期出所する者は1年に約7200人を数える。このうち約1000人は高齢や障害による自立困難者だ。
これまでは出所後に福祉サービスをスムーズに受けられる仕組みがなく、満期釈放者には更生保護施設の門も閉ざされていた。釈放時に受け取る懲役作業の報奨金も平均5万6000円ほどで、生活に困って再犯に走る出所者が後を絶たなかった。
一昨年1月には、当時74歳の男が出所8日後に山口県のJR下関駅に放火した事件が波紋を広げたが、衣食住に加え医療まで受けられる刑務所の暮らしに苦痛を感じなくなっている出所者も多い。高齢の満期出所者の約70%が5年以内に再入所している現実もある。
今後は支援策として、刑務所内に社会福祉士を配置し、服役中から出所後を見据えて自立困難者らへの支援の準備を進めるほか、更生保護施設に福祉スタッフを加えて満期釈放者も受け入れる。全都道府県には「地域生活定着支援センター」を整備して就労機会の拡大を図る、としている。
問題は実現可能性だ。人手不足の農林業への就職を促進することなどは名案だが、実際に雇用主や就労先となる企業を探すのは容易ではあるまい。茨城県の就業支援センターで12人程度の出所者に農作業の訓練を受けさせ、原則6カ月後に自立させるパイロット事業なども始まるが、掛け声倒れに終わらせぬため担当者の実証的な努力と工夫が欠かせない。勤労意欲の高い出所者に技術を習得させ、就労の確実な成果を社会に認めさせることが大切だ。
服役中から出所後に実際に役立つ技能を習得させる懲役作業を増やしたり、作業報奨金や受給資格者への年金支給のあり方なども再検討すべきだ。厳罰化の功罪も、問い直されねばならない。出所者らが塀の中の方が充実していると考えてしまう福祉や医療の現状が、改善を求められていることは言うまでもない。
毎日新聞 2008年10月26日 東京朝刊