金融不安に不況への不安が加わり、世界中の株式市場や外国為替市場が猛烈に揺さぶられている。東京市場では日経平均株価がバブル崩壊後の最安値に迫ったが、今や先進国だけでなく、アジアを含む新興国の株価や通貨の急落も深刻だ。
リスクを回避し、手元にできるだけ現金を確保しておこうとヘッジファンドなどが資産売却を急いでいることが背景にある。外国為替市場で円相場が一気に上昇したが、不安が最も小さい通貨として、消去法で買いが集中したためだ。
ごく短時間のうちに激しく乱高下する市場の値動きは、投資家心理の動揺を映し出している。不安の増幅がパニック売りを呼び、市場の混乱がさらに不安心理をかき立てて実体経済の悪化に拍車をかける、といった負の連鎖を、早く断ち切らねばならない。
市場に平静さを戻すために、主要国はさらなる結束の強化が求められる。協調しながら、それぞれの国の景気浮揚に全力を挙げると同時に、市場の荒波を受けて新興国や中小国がおぼれることのないよう、多国間の枠組みを活用し救済する必要がある。どんな小国でも、今のように市場で不安が渦巻いている最中に国家破綻(はたん)となれば、連鎖的な通貨暴落や一段の株安の引き金を引くことになろう。人ごとでは済まないのだ。
そこで、にわかに脚光を浴び始めたのが、国際通貨基金(IMF)である。北京で開かれたアジア欧州会議(ASEM)は、金融危機に対する特別声明の中で、IMFの積極的な貢献を求めた。アイスランドへの緊急融資が決まったが、今後、新興国などが一時的な外貨の資金繰り難に見舞われるような場合、IMFが迅速かつ柔軟に短期資金を供給できるよう、しっかりとした枠組みを整えておく必要がある。
来月15日には、米国で主要20カ国・地域による緊急首脳会議が開かれる。準備期間が短く、しかも米大統領選挙からわずか10日余という時期に、注目度が極めて高い首脳の会議を開くことにはリスクが伴う。ただ、開催する以上は、市場の不安心理を静めるための最大限の努力が求められる。
欧州諸国が提案しているように、金融危機の再発防止のため、国際的な規制や監督体制の強化を議論する必要はある。しかし今は、金融の世界で加速しているリスク資産のパニック売りが、実体経済の悪化に拍車をかけるのを食い止めることが、何より優先されるべきではないだろうか。
政府は銀行が保有する株式の買い取り再開や、銀行の自己資本比率の算出法見直しなどの検討に入った。実効性のある対策を早急に打ち出すと同時に、国外の不安解消にも貢献できるよう知恵をしぼる必要がある。政治の指導力とグローバル度が試される時だ。
毎日新聞 2008年10月26日 東京朝刊