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社説

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株・円パニック―不安一掃に手を尽くせ

 円高と株安の連鎖が異様な状態に陥っている。円相場は一時、対ドルでは1ドル=90円台に、対ユーロでも1ユーロ=113円台に突入した。

 このあおりで、日本の株価は雪崩のような値下がりに見舞われた。日経平均がバブル崩壊後の最安値にあと40円余という7649円まで落ちた。アジアや欧州でも下落し、世界で暴落が連鎖する様相が再び強まった。

 円高を加速させたのは、各国通貨の間に働く「消去法」だ。世界景気を引っ張ってきた欧米や新興国が金融危機で急速に景気を冷え込ませ、その通貨は売りが売りを呼ぶ。相対的に傷の浅い日本の円が逆に買われている。

 これが日本を支える輸出企業の株価を直撃した。ソニーが連結営業利益の57%が吹き飛ぶ下方修正を発表したのを引き金に、他の電機や自動車、精密機械にも業績悪化の不安が広がった。週明けの相場も厳しそうだ。

 バブル崩壊後の安値を突き破っていくようだと、保有株の評価損から企業業績も大きな打撃を受ける。とくに銀行は自己資本のゆとりがなくなり、貸し渋り・貸しはがしという悪影響を及ぼすことが心配される。

 政府は、金融機関への機動的な資本注入を可能にする新・金融機能強化法について、公的資金枠を2兆円からさらに積み増す方針という。そのほか、証券優遇税制の延長や、政府と日銀による銀行保有株式の買い入れ再開、時価会計や銀行の自己資本比率規制の見直しなどを検討している。

 パニック状態のときは、可能な手だてを総動員することが大切だ。

 市場の動きで懸念されるのは、円高と株安があまりにも連動しすぎることだ。相対的に日本経済の力を評価して円高になると、それが日本経済の先行きを悲観させて株暴落を呼ぶ。だが、円高は悪いことばかりだろうか。

 円高は資源エネルギー価格の下落と相乗効果を発揮して、輸入原材料の価格を飛躍的に引き下げる。また円買いで日本国内にたまった資金は、やがて株へも向かうだろう。ドル建てで見た日本の株価は堅調だから、世界の投資家から見直される可能性もある。円高が日本経済に対しプラスに働く面にも投資家は目を向けるべきだ。

 政府は為替安定をめざすことで、株安の沈静化も図れるはずだ。米欧と協調しつつ、急激な変動には断固たる姿勢を示す必要がある。適切な時機に協調介入へも踏み切るべきだ。

 東証1部の株価は、企業を解散して資産処分した場合の価値をかなり下回る、という異常な安値になった。

 バブル後最安値を更新すれば82年11月以来の水準に戻る。この26年間に日本企業が進めてきた研究開発や合理化努力は大きい。投資家は、企業の底力を長期的な視点で評価すべき時だ。

排出量取引―「日本発」を試行で探れ

 脱温暖化の柱となるかもしれない試みが、ようやく動き出した。

 二酸化炭素(CO2)に対する国内排出量取引の試行である。参加企業の募集が始まり、来年の夏ごろには取引が本格化する。

 あらかじめ決められた枠を超える量を排出した企業は、枠内に収めた企業から余った枠を買う。たくさん出せば損をし、減らせば得をするので省エネルギーなどの技術開発を促すことになる。これが排出量取引の考え方だ。

 欧州では05年に本格取引が始まり、問題点を見直しながら走っている。米国の北東部10州でも先月に動き出したほか、連邦レベルでは、大統領選を戦うオバマ氏もマケイン氏も前向きだ。世界規模の市場が生まれそうな情勢のなかで、日本なりの制度を探ろうという試みそのものは歓迎したい。

 しかし、試行の中身を見ると、気がかりな点が目につく。

 まず、排出量取引に消極的な産業界に配慮した結果、「義務」の要素が抜け落ちたことだ。参加するかしないかは企業任せ。参加した場合の排出枠も企業が自ら決めることができる。枠が妥当かどうか政府がチェックするというが、緩めの設定をする企業が相次げば、排出削減につながらない。

 CO2など温室効果ガスの排出削減に向け、日本は京都議定書第1期が12年で終わった後も国としての数値目標を掲げる。福田前首相はそう宣言した。国家が削減目標を引き受ける以上、産業界もそれに見合った削減を迫られる。できるだけ早く義務の伴う制度に移行すべきだろう。

 そうはいっても今回は試行なのだから、ということかもしれない。だとすれば、そこからどんな教訓や課題を引き出せるのかも重要だ。

 政府が決めた計画では、枠として掲げる数値を実際の総排出量にするか、生産量など経済活動当たりの排出量にするか、といったことまで企業が自由に選べる。それぞれの方法にどんな長所があり、どんな欠点があるのかを事後に厳しく評価しなければ、よりよい制度設計には結びつかないだろう。

 排出量取引は、まだまだ生まれたばかりの制度だ。国際市場の輪郭も定まっていない。だからこそ、日本に独自のアイデアがあれば、それを反映させることもできる。

 「厳しい排出枠は企業活動を縛る」「投機的資金が流れ込んでマネーゲームになる」といった懐疑論もある。ならば、それにも耳を傾けて制度の改良に生かしたらよい。

 「温暖化対策を単なるコストと考えるのではなく、未来への投資と考えることが大切」と麻生首相は言う。今回の試行を通じて日本の産業を脱温暖化型に変えるためにも、政府はもっとリーダーシップを発揮してほしい。

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