2008-10-23
医療批判と目くそ鼻くその厚生労働省批判
墨東病院事故とほぼタイミングを同じくして次の報道があり、
救急医療の要として全国に210カ所ある救命救急センターについて、厚生労働省は19日までに、体制の充実度を評価する新しい基準をまとめた。救急車で搬送された患者が受け入れを拒否される「たらい回し」を減らすとともに、救急現場が疲弊するのを防ぐのが狙い。来年度から導入し、基準に満たない場合は補助金を減額する“罰則”も設けた。
日経「「患者たらい回し」抑制 厚労省、救急センター評価に新基準」
はてなブックマークでは厚生労働省批判が喧しくなっています。でも、厚生労働省批判というのは、たとえば墨東病院事件で墨東病院を批判するようなもので、何ら事態の改善に寄与しないどころか、かえって事態を悪化させるおそれも多分にあるもの。
つまりは医療に割くリソース削減は厚生労働省が推進してきたものでは決してなく構造改革・小さな政府路線の帰結であり、政府内で医療に割くリソース増加を主張する厚生労働省をいくら批判したところで厚生労働省のプレゼンスを低下させるのが関の山、結局はリソース削減を助長してしまいかねないのです。このことは当サイトでは何度となく書いてきましたが、webmasterが書いても官僚の自己弁護とも受け取られるでしょうから、権丈先生のご意見を引いておきます。
日本という国の住人は、どうも最近、現行のGDPに占める公的医療費の割合の水準に不満があるらしく、これを増やすべきだと考えてはいるようではある。しかしながら、医療関係者の団体である、日医、保団連、民医連(50音順)などは、負担増などはもっての他、中には消費税は廃止せよとも言い続け、それらの論を吟味する余裕のないほどに毎日が多忙な多くの医療関係者に、そういう考えを強く信じ込ませてきたようでもある。さらには、「道路と命、どちらが大切?――財源はある!」などと言っておけば、聴衆から拍手喝采を浴びる風土も、日本という国には根強くある。
日本の医療が今のような危機に瀕するまでになってしまった原因の多くは、実は医療界が揃いも揃って、非現実的な財源政策を信じ切ってきた、もしくは医療団体のトップ(そことつながりをもつ政治団体)が確信犯的に人びとに広く非現実的な財源政策を信じ込ませ、いまやその信念が、この国の風土として深く定着してきたことにあったのではなかろうかという思いを強くいだくようになって久しい。彼らはいずれも、田中滋氏が評するように、「よその分野の金を医療にと主張する…情けない主張」を説き続けてきた。
医療関係者の多くが、「情けない主張」に今も固執していることは、重々承知の上で、言っておく。公的医療費を増やすということは再分配額を増やすことであり、再分配を充実させるためには、いったん政府に所得を預けるための負担を増やさざるを得ないのは当たり前である。そしてこの国の負担は、まともな福祉政策を展開するにはあまりにも少なすぎる。日本の医療は崩壊の危機にある、いや、部分的にはすでに崩壊しているのであるが、日本の公的医療費のGDPに占める割合は、負担の割には高い。すなわち、医療は、政府から実は優遇され、大目に見てもらっているのであり、そのしわ寄せは、少子化対策への支出、労働政策への支出、教育への公的支出が極端に低いことや赤字国債の発行などにあらわれているのが現状である。そして多くの誤解があるようだが、公務員の数も公務員に使っている人件費も、日本は他国に比して少ないのである。したがって、勿凝学問185に記したように「この国の今の状況で、負担増のビジョンを示さない政党には拒否権を発動するべし」と、ついつい言いたくなる。「社会保障を守り抜くには負担増以外に道はない」「負担なくして福祉なし」――この国の今の状況で、負担増のビジョンを示さない政党など、政局しか頭にない、死すべき運命にある政党にすぎないことは言うまでもなかろう。
勿凝学問186(webmaster注:原文の注記は略しました)
救急医療等が現場の懸命な努力で保たれてきたように、負担に対する比率としては国際的にもトップクラスである医療へのリソース配分は、厚生労働省が構造改革主義者やら財務省やらと必死に戦って勝ち取ってきたものです。そんな厚生労働省の努力を認めもせず、たとえば上記引用にてリンクの張ってある本田先生のように構造改革主義に加担するようでは、医療に関するメディア報道への批判などする資格はないとしか、webmasterには見えません。
墨東病院事件について医療に問題があるのでは、との発言を集めたエントリへのはてなブックマークでの反応の多くは、医療崩壊問題についての厚生労働省批判を見た際にwebmasterが慨嘆とともに頭に思い浮かべるものでもあります。医療側に対するメディアの、そして世間の無理解に苦しんでいるのであれば、同様に厚生労働省がメディアや世間の無理解に苦しんでいることにも、少しは想像力が及んでもいいはずなのに。
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