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「都市鉱山」に挑む リサイクルに立ちはだかる コスト、回収技術の壁

 チタンやプラチナなど、家電や電子機器に欠かせないレアメタル(希少金属)は、天然資源に乏しい日本では入手が難しい。産出国の資源戦略や政治情勢による価格高騰や輸出制限の恐れもある。こうした状況を克服するため、地方自治体や業界、政府レベルでリサイクルへの挑戦が始まっている。【大場あい】

 ◆埋蔵量は世界有数

 地球上の絶対量が少なく、入手が難しい金属を「レアメタル」と呼ぶ。日本では鉱業審議会が84年、プラチナ、インジウムなど31種をレアメタルと定義した。

 プラチナは電極や自動車の排ガスを浄化する触媒などに欠かせないが、世界の7割以上が南アフリカ産。液晶画面などに使われるインジウムは5割以上が中国で産出されるが、鉱山の閉鎖や中国の内需優先政策などで、02~07年の間に価格が8・5倍に高騰した。

 そこで近年注目されているのが「都市鉱山」だ。実際の鉱山ではなく、不用品として眠っていたり、廃棄される電子部品からレアメタルを回収して再利用すれば、それは都市の中の「鉱山」に等しい。

 物質・材料研究機構(茨城県つくば市)の推計によると、日本は世界有数の「レアメタル大国」だという。インジウムの都市鉱山としての埋蔵量は1700トンで、世界の年間消費量の約4倍に相当する。同機構の原田幸明・材料ラボ長は「国家の資源戦略のためにも発想の転換が必要。リサイクルが浸透すれば、製品も再利用しやすいように設計するなど、循環の仕組みができるはず」と期待する。

 ◆自治体など試行錯誤

 環境省は来年度から、デジタルカメラや携帯音楽プレーヤーなど小型電子機器を対象に、自治体での回収方法などを検討する。環境省リサイクル推進室は「都市鉱山が利用できれば、採掘に伴う環境負荷も減り地球環境にとってプラスになる」と意義を強調する。

 小型電子機器のリサイクルとしては、通信事業者やメーカーが携帯電話を回収し、金、銀、銅、パラジウムを取り出して再利用している。しかし、携帯電話端末の回収は00年度をピークに減少傾向だ。電気通信事業者協会によると、端末の耐久性が向上したことに加え、メールなどのデータを記念に保存したり、個人情報が漏れることを心配して回収に出さない人が多いという。東京都は今年3月、自治体や企業と「希少金属等含有製品回収促進協議会」を設立。年内には大規模な回収実験を予定している。

 秋田県では、携帯電話に限定しない回収試験が進んでいる。東北大の研究者が中心となって作った「RtoS研究会」(代表、中村崇・東北大教授)が始め、今年度には全県に拡大した。

 不要になった小型家電や電子機器を、スーパーの店頭などに置いた専用回収ボックスに入れてもらう。大きなものは不燃ごみ、粗大ごみから回収する。回収実績は初年度(06年12月~07年3月)が約5000個(7トン)、2年目(07年4月~08年3月)は約1万個(約17・5トン)。集まった機器はリモコンから電子レンジまで450種以上に上った。

 ◆利益見込めず 

 実験を通して浮かんだ課題の一つは、消費者に「家電が資源になる」という意識が薄いことだった。昨年度回収した機器の半数近くは不燃ごみ、粗大ごみから。回収ボックスに入る大きさでも同様で、リモコンの3割、携帯電話の1割はごみとして捨てられた。

 コストも課題だ。貴重な金属とはいえ少量しか使われていないため、回収コストに見合う「利益」は見込めない。同研究会の白鳥寿一・東北大教授(資源工学)によると、バッテリーを外した携帯電話1台(約80グラム)の価値は、レアメタル以外の金属も含めて100円程度という。白鳥教授は「ビジネスになるかどうかは、どういうリサイクルの仕組みを作るかにかかっている」と話す。

 回収技術にも高い壁がある。資源エネルギー庁によると、既存の製錬工場の工程では、製品から取り出せるのは金、銀、銅、プラチナなどで、ほとんどのレアメタルはまだ技術が確立されていない。

 レアメタルの種類や使用量が正確に分からない機器が多いこともリサイクルを難しくしている。特定の金属だけを回収する工程を作るには、種類や量の特定が欠かせない。しかし実際には、多数の部品をそれぞれ別の業者に作らせるため、メーカーでさえも正確に把握していないことが多い。

 同庁は昨年度から、環境負荷の少ない製錬工程の研究を進めているが、実用化は先になる見込みだ。

毎日新聞 2008年9月15日 東京朝刊

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