世界的な金融危機の連鎖を防ぐため、米欧の6中央銀行が協調利下げに踏み切った8日、中国人民銀行も再利下げに踏み切った。米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻(はたん)を受けた利下げからわずか3週間。物価上昇懸念が高まる中、今秋、約6年7カ月続いた引き締め局面を転換したのは、中国経済に黄信号が点滅していることを示している。
北京五輪後、中国の不動産市況の低落が顕著になっている。販売面積は今年1月から5割以上も減少、中国各紙は連日、不動産価格下落を競って報じる。
13日付の中国各紙は、「わずか10日間で2割以上の値下げ販売が実施された」ことを理由に、北京市のマンションを購入した女性が開発業者に購入価格変更を求めた訴訟を大きく報じた。「北京初のマンション値下げ要求訴訟」(「法制晩報」)という。
米大手証券、モルガン・スタンレーの中国エコノミストである王慶氏は「中国の不動産市場が崩壊状態になるかもしれない」と警告。王氏は「そうなれば、来年の成長率は7%以下に落ち込む」と指摘する。毎年900万人以上とされる新規雇用の受け皿をつくるには「7~8%成長の維持が社会安定の最低ライン」といわれる中国で、王氏の分析は大きな波紋を広げている。
五輪開幕前は「五輪に向けたインフラ投資は全国の投資額の3~5%に過ぎない」と、経済の急成長が続くとの楽観論一色だったが、リーマン破綻後、様相が激変した。株も下げ止まらず、上海総合株価指数は2回の利下げにもかかわらず、昨年10月につけた最高値の3分の1に低迷している。
経済運営をめぐり、中国指導部内で確執が深まっているとの観測も浮上している。中国人民銀行の周小川・総裁が、利下げを決める重要会議に出席していなかったとの情報だ。周総裁は、競争力の無い企業の淘汰(とうた)を進める構造改革派で、インフレ鎮静化のため、再利上げを模索していた。だが一部のネットメディアでは、05年7月の人民元改革に伴う人民元高で「多くの企業倒産を引き起こした戦犯」との批判もある。解任説が有力視されており、不満のはけ口を解消するための「スケープゴートにされる」との見方も広がる。
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胡錦濤国家主席は先月21日、日中経済協会訪中団に「国際経済情勢の変化に注意を払っている」と述べる一方、「中国は比較的速い発展を維持できる」と笑顔で答えるなど、先行き不安を捨てきれない日本の経営者に楽観論を語っていた。
だが、今月20日に発表された中国の第3四半期の経済成長率が9・0%に落ち込んだことで、温家宝首相が「世界的な金融危機の影響で中国の成長は明らかに鈍化している」と財政出動を含む早急な追加対策の実施を指示した。指導部にも悲観論が色濃くなりつつある。
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中国が国家威信をかけた北京五輪が閉幕して約2カ月がたった。五輪で何が変化し、何が変わらなかったのか。現場から報告する。【北京・大塚卓也】=つづく
毎日新聞 2008年10月21日 東京朝刊
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