『ネイチャー』誌、ウィキペディアの正確さを評価
2005年12月19日
ボランティアによって書かれた400万近い項目を擁するオンライン百科事典『ウィキペディア』は、科学分野の話題を扱った項目の正確性では『ブリタニカ百科事典』に匹敵する――このような趣旨の記事が、12月15日付で『ネイチャー』誌のオンライン版に掲載された。
この記事は、両事典の広範囲にわたる科学分野の記載を突き合わせ、比較した調査を基にしている。ウィキペディアが一部の項目で不正確だと批判されている中での掲載となった。
2週間前、著名なジャーナリストのジョン・サイゲンセラー氏は、同氏がジョン・F・ケネディー元米大統領と弟のロバート・ケネディー氏の暗殺に関与した容疑を長い間かけられてきたとの虚偽の情報を含む記述が、ウィキペディアに約4ヵ月前から掲載されていることを明らかにした(日本語版記事)。サイゲンセラー氏はテネシー州の『テネシーアン』紙の発行人、『USAトゥデイ』紙の初代エディトリアル・ディレクターなどを務めた。
ネイチャー誌は今回の記事の中で、このような誤った記述はどちらかといえば例外のようだとしている。この記事は、ウィキペディアと『ブリタニカ百科事典』の比較に、その分野の専門家による審査(ピアレビュー)を初めて用いたものだという。ネイチャー誌によると、複数の専門家で42項目を検討したところ、ウィキペディアは間違いや抜け落ちが科学分野の1項目あたり平均4つあったが、これに対し『ブリタニカ百科事典』は3つだった。
専門家の調査員が発見した8つの「深刻な間違い」――重要な概念の誤った解釈など――のうち、4つは両事典に共通していたとネイチャー誌は報じている。
これを受け、現在ウィキメディア財団(フロリダ州セントピーターズバーグ)が運営するウィキペディアを2001年に創設したジミー・ウェールズ会長は、「今回の調査結果をとても喜んでいる。これをきっかけとして、ウィキペディアの全体的なレベルは非常に高いという点に、人々が目を向けてくれることを希望している」と語った。
ウェールズ氏によると、ウィキペディアの記述の正確さは分野によって異なり、主にポップカルチャーや最新技術の分野を得意にしているという。その理由として、ウィキペディアを支えるボランティアが、全体的にこうした分野に詳しい傾向があるという点をウェールズ氏は挙げる。
逆に、年度別のノーベル文学賞受賞者といった人文系の分野では、ウィキペディアは遅れを取りがちだとウェールズ氏は話している。
ウィキペディアでは記事の正確さを審査する新しい仕組みを、来月から試験運用する予定だ。また、コンピューターやインターネットにそれほど詳しくない人が審査プロセスに加わりやすくする方策にも取り組んでいる。
米エンサイクロペディア・ブリタニカ社(本社イリノイ州シカゴ)の関係者は、データを見ていないとの理由でネイチャー誌の調査に関するコメントを控えた。しかし、このような比較は「他ではわからないことを教えてくれる」ため、正確に行なわれているのなら有益だと答えた。
一部のブリタニカ社の関係者は、過去にウィキペディアの記事の質を公に批判したことがある。しかしブリタニカ社は今回、無料サービスであるウィキペディアは「エクストリーム・アイロン掛け」といった話題にもついていけるような、フットワークの軽さと幅広さを持っていると称賛した。普通ならあり得ないような場所でアイロン掛けを競うこのスポーツは『ブリタニカ百科事典』に記載されていない。
ブリタニカ社では、社内の調査員がネイチャー誌の記事を検討し、発見された間違いはすべて訂正する予定だと語っている。
専門家からなるスタッフの調査・執筆に対し報酬を支払い、記載内容を有料で提供している『ブリタニカ百科事典』と違い、ウィキペディアはコンテンツを無料で開放しており、だれもが――プロとアマチュア、専門家と初心者を問わず――項目の投稿と編集を行なえる。
トラフィック・ランキングで有名な米アレクサ・インターネット社によると、200の言語で約370万の総項目数を誇るウィキペディアは、インターネット上で最も訪問者の多いサイトのランキングで37位に入っている。
[日本語版:緒方 亮/長谷 睦]
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