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2008年10月25日

◎東証8千円割れ 日銀は協調利下げを視野に

 日経平均株価が五年五カ月ぶりに八〇〇〇円の大台を割り込み、バブル崩壊後の最安値 に迫った。東証と同様、他のアジア、欧州市場も軒並み暴落し、韓国やロシアでは市場が閉鎖された。私たちは今、「世界恐慌」の入り口に立っているのだろうか。

 世界の主要通貨が対ドルで下げ続ける一方、円は十三年二カ月ぶりに一ドル=九〇円台 、ユーロも六年ぶりに一一三円台まで急騰した。円の独歩高は、主要通貨の下落で行き場を失った資金が殺到しているためであり、円が世界の主要通貨の「最後の砦」となっている姿が目に浮かぶ。

 円高は、原油などエネルギーや原材料価格を押し下げる効果もあり、不利な面ばかりと はいえないが、輸出企業の業績悪化を招き、株価をさらに押し下げる要因になる。株価八〇〇〇円割れで欧米諸国より健全とされてきた国内金融機関の含み益は吹き飛び、大半がマイナスに落ち込んだことだろう。金融機関に余力が無くなれば、貸し渋りに拍車がかかり、国内景気をますます悪くしかねない。

 日本の金融システムはもはや健全だと胸を張っていられる状況ではない。これ以上、景 気を冷やさぬよう日銀は利下げを本気で考える時期に来ているのではないか。日本の利下げ余地は乏しいが、各国がさらに利下げを進めると、低金利の日本との金利差が縮小し、ますます円高に弾みがつく。日銀が利下げに踏み切れば、円買い圧力が弱まり、低利の円を借りて新興国などの高利回り市場に投資する「円キャリー取引」の急激な巻き戻しを止める効果もあるだろう。

 日本は十月八日に欧米の主要国が行った協調利下げに同調しなかった。金利引き下げよ り、流動性の供給を重視した当時はそれで良かったかもしれないが、金融市場の動揺は収まらず、円高のスピードは予想をはるかに超えている。十一月十五日にはワシントンで主要二十カ国・地域(G20)の緊急首脳会合が開催される。円高・株安の進行状況を注視しながら、利下げのタイミングを図ってほしい。日銀が利下げを視野に入れた発言をするだけでもかなりの効果が期待できるのではないか。

◎台湾で観光情報紙 「知らせる」が需要を呼ぶ

 今は亡きピーター・ドラッカー氏は「現代マネジメントの父」といわれた。その氏が正 真正銘のマーケティングを世界で初めて実践したのは十七世紀の日本の商人であり、人口の多い江戸へ出て小売店を構え、各地の産品を取り寄せて並べたことが大成功につながったと学生に教えたそうである。

 売ろうとして並べたというより、並べてみたら飛ぶように売れたという結果に着目して 、彼らは新しいコンセプト(基本概念)を持って江戸へ行ったと指摘したところにドラッカー氏の博識や非凡さがよく出ている。

 手前みそになるかも知れないが、北國新聞社は今度、台湾最大の都市・台北で北陸地方 の魅力を特集した観光情報紙「深度日本紀行 日本的北陸石川」を発行し、三十万部の戸別配布を試みた。旅行代理店や観光関係者らとの連携を強めるとともに、自らも地域の魅力を並べ、知ってもらうことによって北陸観光の需要を呼ぼうとするもので、ドラッカー氏の着目と相通じるものがあるといえる。

 石川県観光交流局によると昨年、石川県を訪れた外国人観光客約十六万人のうち半数が 台湾からの旅行者だった。今年六月、小松―台北間を三時間ほどで結ぶ直行便が就航したことや、北陸へ来た旅行者の口コミによる宣伝などの効果だろう。

 台湾が日本の領土に編入されていた時代、南部の広大な荒野を水利事業で豊かな耕地に 変えたことに貢献した八田與一技師の功績や、同技師が金沢の出身であることなどが知れ渡った効果でもあるだろう。

 富山県では「産業観光」にも力を入れ、県外の人たち―とりわけ中京圏の人々に的を絞 って富山のものづくりの現場を見てもらう試みが軌道に乗ってきたといわれる。これなども単に交流人口が増えるだけでなく、富山の産品に対する購買意欲の喚起につながっていくはずだ。

 ドラッカー氏を感心させた日本の商人の知恵を見直し、「知ってもらう」努力や「見て もらう」努力で北陸を活性化したい。


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