麻生太郎首相がアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の始まった北京で中韓首脳らと初会談した。周辺国を重視する方針を示したが外交で「価値観」を強調する姿勢との関係がはっきりしない。
麻生首相は外相時代に米国やオーストラリア、インドなどと連携し、アジア民主化を進める「自由と繁栄の弧」構想を打ち出し中国が警戒した。歴史問題に関する「失言」で韓国が反発したこともある。就任から日を置かず中韓首脳や東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳らと会談し、周辺外交を重視する姿勢を示したことは各国の疑念をぬぐい去ることにつながる。
これにこたえ韓国は竹島問題には触れず「首脳シャトル外交」を継続することに同意した。
中国もASEMの最中にもかかわらず日中平和友好条約三十周年の記念式典を開いて首相を厚遇。会談では「戦略的互恵関係」を推進する方針を確認し、首脳同士のホットライン開設でも合意した。
しかし、首相のアジア外交方針には疑問も残る。首相は「基本的価値を同じくする諸国との連帯」(国連演説)を繰り返し強調している。中国訪問に先立ち民主主義国と見なすインドのシン首相を招き、米豪に続く安全保障共同宣言を発表したのは「価値観外交」の表れだろう。
その一方で特定の国を「価値観が違う」と決め付けるのは、外交面でどれほど有効だろうか。価値観外交には同盟国の米国さえ「中国に思いがけないシグナルを送る可能性がある」(ライス国務長官)とたしなめたことがある。豪印も重要な経済パートナーとなった中国との関係を重視している。
日本にとっても中国は今や米国を上回る最大の貿易相手だ。米国発の金融危機でドルの信用が低下する中、世界で最大級のドル資産を抱える立場も共通している。
一九九七年のアジア通貨危機で日本は中韓やASEAN諸国に通貨安定基金を設立することを呼び掛けた。今回も韓国などが同様の提案をしているが、日本の態度は煮え切らない。
新たな方針は来月、ワシントンで開かれる金融サミットを待つ姿勢のようだ。
中韓やASEANとの協力に通貨危機当時の熱が感じられないことに、価値観外交の影響はないか。十二月に日中韓首脳会談を国内で開催するつもりなら、従来の価値観外交を超えるメッセージを周辺国に発するべきだ。
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