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1978年10月23日、日中平和友好条約が発効した。当時、日本は日の出の勢いだった。中国は文化大革命の混乱が終わって2年で、両国の経済力には大きな差があった。それから30年。この関係は劇的に変わった。
いまや中国は政治においても経済においても大国だ。世界の二つのパワーとして、日本と中国は次の30年をどう描けばよいのだろうか。
条約締結から間もなく、中国共産党は改革開放に踏み出すことを決めた。日本は翌年、中国に対する政府の途上国援助(ODA)を始め、資金や技術などで中国の発展を支えた。日本側には、日中戦争の賠償に代わるものとしての意識もあった。そしていま、両国には金融危機に見舞われた世界を支える役割を期待される。
30年間の成果といえる。だが一方で、国民の間の不信感は根強い。
30年の最初の10年は順風だった。政府の世論調査によると、中国に親しみを感じる人が7割前後あった。しかし、天安門事件が起きた89年に急落した。政治体制の違いを超えてつきあうことの難しさを日本人は痛感した。
サッカーの「反日応援」が問題になった04年、反日デモが起きた05年には3割台に落ち込んだ。中国側の対日感情の悪化と連動していた。本社と中国社会科学院との世論調査で、中国側の64%が日本を「嫌い」と答えた。
中国側には、小泉元首相の靖国神社参拝をはじめ、歴史問題に対する日本人の無理解への反発が根強い。日本側にはバブル崩壊後の自信の喪失もあって中国を脅威と感じやすくなったことなど様々な要因があるようだ。
こうした歩みに日中関係の難しさが浮かぶ。それでも、互いに利益になることからやっていこう。そんな「戦略的互恵関係」という発想にたどりついたのは2年前のことだ。
胡錦濤国家主席がことし5月に訪日した際、両国は協力してアジアや世界に貢献しようと合意した。麻生首相もきのうの30周年記念式典で「より活力ある、開かれたアジアのために、共に働き、共に伸びる」と述べた。
地域の経済危機への対応、北朝鮮の核廃棄、地球温暖化対策、大規模な自然災害や感染症に即時対応する地域システムづくり――日中が共同で取り組むことのできる問題は多い。
そのために、中国には政策決定や軍事、安保政策の不透明性を解消する努力をしてほしい。国際社会の共同作業への一層の協力姿勢も求めたい。
この地域では日米同盟が重要な役割を果たすが、このところ米中関係も密接だ。日米中3カ国の安定した関係維持がいっそう大切になるだろう。
日中が世界に貢献を重ねるにつれ、相互の信頼感が増し、心も開かれてくる。次の30年はそうありたい。
少子高齢化で膨らむ社会保障の財源をどうするのか。景気対策は大事だが、国債の垂れ流しは困る。そんな不安が国民の間に漂うなか、麻生首相が注目すべき発言をした。
月末にまとめる新総合経済対策に、消費税率の引き上げを含む中期の税体系プログラムを盛り込むよう与党に指示したのだ。
何を言わんとしているのか、はっきりしないところはある。だが、首相の発言をいろいろ重ね合わせると、こんな趣旨になるのではないか。
「全治3年」の日本経済が回復してくれば、消費税の増税に踏み出す。いつ、どのように税率を上げていくか、具体的なスケジュールを描き、負担増について総選挙で国民に訴える――。
もしそうであるなら、その言やよしである。なにしろ、選挙の前に増税方針を打ち出すのはタブーといわれてきた。それを破って、負担増を真正面に掲げ、国民に信を問うという決意表明になるからだ。
しかし、そう信じるにはいささか不安な材料もある。月末の対策とりまとめまでわずか1週間しかない。しかも与党や政府の税制調査会の議論もまったく経ていない。
ひょっとして、実はまた、増税論議を先送りするための「逃げ水」公約ではないのか。小泉、安倍、福田政権はいずれも、税制の抜本改革の中で方向づけると言いながら、結局は論議を先送りしてきた過去がある。
勇気をもって財源を語ろうというのなら結構だが、その割に新総合経済対策には定額減税をはじめ、高速道路料金の引き下げなど「バラマキ色」の濃い施策が並びそうだ。来春には国民年金の国庫負担割合を引き上げるための財源も必要になる。
むしろ、とうぶんは国債を大量増発してしのぐための口実ではないのか、という意地悪な見方も出てきそうだ。
首相は本気なのかもしれない。増税論を語らない民主党とここで差をつけ、責任政党として存在感を示すというなら、それは王道だろう。
ならばこの際、首相に提案したい。
増税の時期と引き上げ率などを具体的な行程表にして総選挙に臨み、勝てばただちにそれを法律で定めると約束することだ。景気回復の足取りによっては実施時期などを見直せる柔軟条項を組み込んでもいい。
社会保障の負担をどのように分かち合っていくか。当面の経済失速を防ぎつつ、財政も再建していく。税制のあり方はそうした基本的な政策の土台になる。あいまいな議論でお茶を濁すことは許されない。
首相は今回の発言をきちんと肉付けしなければいけない。当面の消費増税を否定する民主党にも、説得力のある税制論、財源論を求めたい。