アメリカの住宅バブル崩壊から始まった金融危機が欧州そして世界に広がっている。1929年の暗黒の木曜日に始まる世界大恐慌と同じ道を歩むのか。今回の危機が、世界大恐慌に匹敵する危機であることは確かだろう。この十年余の間にも、アジア、韓国、日本と金融危機は次々に訪れているが、これらは一国ないし地域単位の危機であった。現代人にとって未体験の危機が進行している。
確かに、サブプライム証券に手を染めていた例の少ない日本では金融システムへの打撃は少ないと思う。日本金融機関のグローバル化の遅れが幸いしたのかもしれない。ただ、バブル後の処理すら十分でない金融機関もあり、安心はできない。また、これから広がる実体経済への負の影響はどれほどの深さでどこまで広がるか十分予見できない。
しかし、80年前の事態が避けられる可能性はきわめて強い。政府・中央銀行の介入に関する国際的な協調が存在するからだ。危機を回避するために予防的にも、事後的にも介入を行うことが、アメリカ国内でも、国際的にも合意されている。日本のバブル崩壊後の迷走に比べて、アメリカ政府とFRBは素早く動いている。市場原理主義者が跋扈(ばっこ)するはずの国で、その哲学に反する行動が次々にとられている。これが日本なら、学者の「神学論争」が生じて動きがとれなくなったことだろう。
アメリカはプラグマティズムが徹底しているのだろう。政府の肥大化が行き過ぎた時に市場原理主義が登場し、市場の破綻(はたん)が見え始めた時は介入も辞さない。市場原理主義の終焉(しゅうえん)とは言いすぎだろうが、その始まり、と言っても言い過ぎではないだろう。(龍)