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政府管掌健康保険:「協会けんぽ」に 医療費減狙い、保険料に差

 ◇来年度以降、都道府県別に改定 受診抑制の懸念も

 サラリーマンの公的医療保険制度が曲がり角を迎えている。中小企業の会社員らが加入する政府管掌健康保険(政管健保)の運営は、社会保険庁から新組織「全国健康保険協会(協会けんぽ)」に移管され、これまでの全国一律の保険料が都道府県単位に切り替わる。大企業の健康保険組合も、後期高齢者医療制度の影響で財政が軒並み悪化し、解散する組合が相次いでいる。【中西拓司】

 会社員の公的医療保険は勤務先によって異なる。勤務先に健康保険組合があればそれに加入するが、ない場合は社保庁の政管健保に加入していた。政管健保の加入者は今年3月末で3594万人で、今月からそのまま協会けんぽに運営が引き継がれた。不祥事が相次いだ社保庁改革の一環だ。

 移行に際し加入者の手続きは必要なく、保険証もそのまま使える。患者の窓口負担(3割)も同じだ。ただ、退職後もそのまま制度に加入する「任意継続」などの手続きは、社会保険事務所から協会けんぽの各都道府県支部に変わった。

 最大の変更点は保険料の仕組みだ。現在の保険料率は、政管健保時と同じ全国一律の8・2%(社員と会社で折半負担)だが、各支部ごとに独自の保険料率を設定できるようになった。

 各支部は今後1年以内に、各都道府県の医療費を反映した保険料率を設定する。都道府県間で医療費削減を競わせ、全体の医療費支出を抑制する狙いがある。

 では、保険料率はどう変わるのか。厚生労働省の試算によると、03年度時点で1人当たりの医療費が最も高い北海道の場合、保険料率は現行より0・5ポイント増の8・7%になる。最低の長野は0・6ポイント減の7・6%で、最大1・1ポイントの差がある。

 加入者の平均標準報酬月額28・4万円(今年4月時点、ほぼ月収に相当)でみると、保険料の自己負担額は北海道が月1万2354円、長野が月1万792円。北海道在住者は長野より月約1500円多く保険料を支払わなければならない計算になる。

 各支部は特定健診・保健指導(メタボ健診)や安価な後発医薬品の推進などで、医療費抑制に努めるが、寒冷など地域特有の問題もあり、効果は限定的との見方がある。

 都道府県ごとに保険料率が変わるのは早くて来年4月以降だ。今後5年間は上限を設けるなどの激変緩和措置がとられ保険料率に大差は出ない見込みだが、その後は格差が際立つ可能性が高い。

 日本医師会の中川俊男常任理事は「住所によって負担に差が出る可能性があり、後期高齢者医療制度以上の混乱も予想される。受診抑制につながる恐れもある」として、健保組合なども含めた医療制度全体の改革を求めている。

 一方、慶応大の駒村康平教授(社会保障論)は「むしろ全国一律だった今までの方が問題。各都道府県の取り組み次第で保険料率に一定の差が出ることは容認できる」と話している。

 ◇健保組合、後期高齢者制度で財政悪化

 健保組合は福利厚生面で協会けんぽより手厚いサービスが受けられる。主に大企業が独自に設け、1社単独なら社員700人以上を条件に国の認可を受けられる。加入者は昨年度末現在、約1500組合3047万人だ。

法的給付以外に人間ドックの補助や、傷病手当、出産手当など独自の上乗せ制度がある。平均保険料率は今年度7・39%で、政管健保より低い組合が多い。

 ただ、今春始まった後期高齢者医療制度で前期高齢者(65~74歳)の納付金が課せられるようになったため、財政が悪化し解散する組合も出ている。今年度に解散したのは西濃運輸、京樽など13組合。来春までにさらに4組合が解散予定だ。今年度に保険料率を引き上げた組合も157に上り、経費削減のため傷病手当の補助などをカットする組合も出ている。健保組合連合会の鈴木克恵理事は「今後、財政悪化で持ちこたえられない組合が増える可能性がある。後期高齢者医療制度見直しを政府に求める」と話す。

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 ◇全国健康保険協会(協会けんぽ)

 社保庁から医療保険業務を受け継ぐ非公務員型の公法人。理事長は小林剛・元富士銀行(現みずほ銀行)常務。「民間ノウハウの活用」を掲げるが、職員約2100人のうち民間採用はわずか300人。社保庁からの再就職組が1800人を占める。これには有名人の年金記録をのぞき見するなどして懲戒処分を受けた71人も含む。年金業務は10年に設立される「日本年金機構」に継承されるが、こちらは処分者の再就職は見送られる方針。

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 ◇都道府県別の保険料率の試算◇

北海道 8.7

青森  8.2

岩手  8.1

宮城  8.0

秋田  8.3

山形  7.9

福島  8.0

茨城  7.8

栃木  7.9

群馬  7.8

埼玉  7.8

千葉  7.8

東京  7.9

神奈川 8.0

新潟  7.9

富山  8.2

石川  8.3

福井  8.0

山梨  7.9

長野  7.6

岐阜  8.0

静岡  7.9

愛知  8.0

三重  8.0

滋賀  7.9

京都  8.0

大阪  8.2

兵庫  8.1

奈良  8.2

和歌山 8.2

鳥取  8.1

島根  8.2

岡山  8.2

広島  8.3

山口  8.2

徳島  8.6

香川  8.3

愛媛  8.1

高知  8.3

福岡  8.4

佐賀  8.4

長崎  8.3

熊本  8.3

大分  8.3

宮崎  8.1

鹿児島 8.1

沖縄  7.8

 (注)単位は%。06年の厚労省試算による

毎日新聞 2008年10月25日 東京朝刊

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