出産を控え、具合が悪くなった女性(36)が八つの病院に受け入れを断られ、脳内出血で死亡した。大都市東京での出来事だ。悲劇を繰り返さないよう、安心できる医療体制を築かなくてはならない。
女性はかかりつけの産婦人科医院に救急車で搬送された。かかりつけ医は脳内出血の疑いがあるとみて受け入れ先を探した。最初に連絡を入れた都立墨東病院は当直の産科医が一人しかおらず、断られたという。
その後、東大病院や慶応大病院、日赤医療センターなどからも断られ、最終的に女性が運ばれたのは最初に連絡した墨東病院だった。赤ちゃんは生まれたが、女性は三日後に亡くなった。
思い出すのは、昨年夏、奈良県の妊婦が九つの病院に受け入れてもらえず、見つかった大阪府高槻市の病院に向かう途中、救急車内で破水し、死産したケースだ。
このときはリスクの大きい妊婦と新生児に対応する「総合周産期母子医療センター」が奈良県に設置されておらず、女性も産科にかかっていなかった状況だった。
しかし、墨東病院は都内に九カ所ある総合周産期母子医療センターの一つであり、二十四時間態勢で急患を受け入れる「ER」(救急救命室)にも指定されている。そんな病院が受け入れを断るというのは医療の危機ではないか。
根本的な問題として医師不足がある。墨東病院も産科医が減ったため、週末や休日は当直医を二人から一人にした。女性が運ばれたのは土曜日で、病院は当直医以外の医師を呼び出して帝王切開し、その後に頭の手術を行った。
勤務医は宿直に日勤が続くことがあり、過酷な労働だ。とりわけ産科医は医療過誤訴訟で当事者になりやすく、敬遠される。待遇を改善するなど、医師を増やす手だてを考えなくてはならない。
医師不足の問題とは別に、東京の都心部で医療機関が患者の受け入れを相次いで断った事態は、病院相互の連携がとれていない実態も浮き彫りにした。加えて、ほかの病院が受け入れるだろうという思いは医療機関側になかっただろうか。
空き病床の情報を正確に管理するネットワークの整備や、受け入れ先病院を調整する組織の設置などは検討すべき事柄だ。墨東級の病院であれば周産期センターとERの連携も確立してほしい。
システム見直しや連携強化は急ぎ取り組む課題であり、東京だけでなく、全国的に行うべきだ。
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