「株式取引所で、いささか困った売りが出ましてね」。一九二九年十月二十四日、つまり七十九年前のきょう、米大財閥の代表が、ニューヨーク株式の大暴落について語った。
二〇年代の米国を描いたF・L・アレンの名著「オンリー・イエスタデイ」に紹介されている話だ。株式下落は、電光表示機では追いつけない速さだったという。控えめな言葉には、市場を安心させる狙いもあったのだろう。
五日後に再び大暴落が始まると株価は底なしとなった。ある銀行家は、国内企業救済のため、破たんを顧みずに貸し付けを続けた。努力は無駄になったはずだ。世界を巻き込む大恐慌に発展したからだ。
第一次大戦後、不動産や消費ブームで空前の好景気に沸いた米国の繁栄は一挙に崩壊した。原因は金融政策の失敗が指摘されている。住宅バブルが崩壊して金融危機に陥った現代米国の経済状況とよく似ている。
大恐慌は、欧州や日本を直撃し、貿易を縮小させ、それまでの国際協調路線は失われた。不況から生まれた全体主義は、第二次世界大戦という悲惨な結果をもたらした。
米国の金融危機では、証券会社の破たん処理などで、世界恐慌になりかねない失敗を重ねている。同じ歴史を繰り返すことは避けねばならない。それが大恐慌の重い教訓だ。