2025年の医療費試算、委員が改革案を評価
10月23日に開かれた社会保障国民会議(座長=吉川洋・東大大学院教授)のサービス保障(医療・介護・福祉)分科会で公表された医療、介護費用のシミュレーション結果では、団塊の世代が75歳以上になる2025年の医療介護費用(07年は41兆円)について、現状ベースで算定した「現状投影シナリオ」(以下A)で約85兆円、医療、介護の「あるべき姿」を踏まえた「改革シナリオ」(同B)では91−94兆円程度となった。どちらのシナリオも現状の倍以上の数字となり、今後の税制改革などで議論を呼びそうだ。
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シナリオBでは、一般病床を急性期と亜急性期等に明確に分けた上で、改革の度合いの低い順にB1(比較的ゆるやか)、B2(大胆)、B3(より大胆)に分類。さらに、医療サービスを充実させるためには、▽在宅介護サービス利用量の増大▽訪問診療の拡充▽各医療機関や介護サービスなどの連携強化―などが必要との見方を示した。また、医師や看護師などの役割分担の見直しを進めることで、病院医師の業務量をB1で現状の10%、B2、B3では20%軽減できるとしている。
現在のDPC(診断群包括分類方式)病院の最良の運営レベルとしたB1では、急性期の平均在院日数を12日、一般病床のベッド数を80万床、亜急性期等では75日、52万床と算定(急性期と亜急性期等を合わせた合算で、07年は20.3日、103万床)。改革で必要となる追加人員は、急性期の一般病床の職員を現状の58%増、亜急性期等ではコメディカルなどが現状の20%増となった。
ヨーロッパ並みの水準を想定したB2では、急性期の平均在院日数を10日、一般病床のベッド数を67万床とし、亜急性期等では60日、44万床とした。さらに、改革に伴う追加人員について、急性期では一般病床の職員を現状の倍増、亜急性期等ではコメディカルなどを30%増とした。追加人員の実数の内訳は、医師数が32.1−33.5万人(07年・27.5万人)、看護職員が194.7−202.9万人(同・132.2万人)、介護職員が255.2万人(同・117.2万人)で、その他の職員も含めると、合計で663.7−678.7万人(同・385万人)となった。
改革が最も進んだ場合を想定したB3では、かかりつけ医の普及などを想定し、急性期をさらに高度急性期と一般急性期に分けた。その場合のベッド数は、高度急性期で26万床、一般急性期で49万床、平均在院日数は高度急性期で16日、一般急性期で9日と試算。それに伴う追加人員について、高度急性期では一般病床の職員を現状の116%増、一般病床では80%増となった。
月当たりのサービス単価は、現状では急性期と亜急性期等を合わせた一般病床で約110万円。これに対し、B2は急性期が約200万円、亜急性期等で約111万円、急性期を二分化したB3は、高度急性期で約230万円、一般急性期で約180万円、亜急性期等で111万円となった。
また、25年の医療、介護費用については、現状41兆円、対GDP(国内総生産)比7.9%に対し、Aが85兆円程度(対GDP比10.8−10.9%)、Bでは91−94兆円程度(同15.7−16.3%)と試算。追加で必要となる公費財源を消費税率で換算した場合、Aで3%程度、Bで4%程度になるとの見方を示した。
■人員増への対応も今後の課題
結果の説明後の質疑応答では、多くの委員が改革案を評価し、今後の問題点を指摘した。
大阪大大学院教授の澤芳樹委員は「大胆で先進的なシミュレーションだ」と評価。また、この試算は「逆に言えば、今それだけ医療費にお金を使っていないことの現われだ」とし、「ギリギリの段階が崩壊していることが、この試算で明らかになったと思う」と述べた。
慶大教授の権丈善一委員は「あるべき姿を求めて改革すれば、(医療費は)増えるに決まっている。この10年間、改革といえば(費用が)減ることだという認識が人々の間で出来上がってきたことが、この国のある種の欠点だった」と発言。そして、改革案の追加の公費財源が消費税率換算で4%であることについて、「足りるのかなと思うが、集中と選択をやっているので、かなりの部分で節約できる」とし、さらに「(財源についての試算は)あくまでミニマム(最低限)だと解釈している」との認識を示した。
野中医院院長の野中博委員は「危惧しているのは、これだけの人員が集められるかどうか。特に看護師や介護士の待遇が、胸を張っていけるほどになるかどうかだ」と述べ、今後は「人員が増えることに対するアプローチの仕方を考える必要がある」と訴えた。
同分科会は質疑応答の内容などを踏まえてまとめた最終報告書を、年内に開催予定の本会議で提出する。
更新:2008/10/24 14:48 キャリアブレイン
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