体調不良を訴えた東京都内の妊婦が都立病院など八カ所の病院に診療を断られ、最終的に脳内出血の手術を受けたものの死亡するという悲劇が起こった。妊婦の救急搬送の受け入れ態勢が脆弱(ぜいじゃく)であることが、あらためて浮き彫りになった。
妊婦は今月四日、吐き気や頭痛でかかりつけの産科医院を訪れた。産科医は都立墨東病院に連絡したが、週末は当直一人態勢ということで、受け入れを断られた。ほかの病院にも断られた産科医から再度要請を受けた墨東病院は医師を呼び出して対応した。最初の要請から約一時間後だった。帝王切開で赤ちゃんは無事生まれたものの、母親は手術の三日後に亡くなった。
墨東病院は、緊急対応を必要とする妊婦や新生児を二十四時間態勢で受け入れる「総合周産期母子医療センター」に都から指定されていた。数年前から産科医が減り、通常二人で回してきた当直を今年七月から土日は一人とし、土日の緊急搬送を原則断っていたという。
産科医不足が指摘されて久しい。それでも、母子の命を守る“最後のとりで”であるはずの総合周産期母子医療センターが、本来の機能が果たせない状態だったということに、驚きを禁じ得ない。
不足しているのは産科医だけではない。小児科や救急医療でも医師が減り、診療科の休止や病院の閉鎖が相次いでいる。宿直勤務が多いといった過酷な労働環境や医療過誤などの訴訟リスクが背景にあるようだ。
医療現場のひずみを改善しなければならない。政府は救急や産科の医師への財政支援などの対策を打ち出しているが、小手先では問題解消につながらないだろう。現場の厳しい実態を踏まえ、医療システム全体を見直していくことが求められる。