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金融危機の影響が世界に広がる中、アジアと欧州の43カ国の首脳らが北京に集まる。アジア欧州会議(ASEM)の首脳会合である。
欧州は、危機の火消しの真っ最中だ。英仏独が金融機関への資本注入を決めたが、ユーロの対ドル相場は急落した。ハンガリーやアイスランド、ウクライナが国際通貨基金(IMF)に緊急支援を求めている。
アジア側からは、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が参加する。その一つ、パキスタンがIMFに駆け込んだ。韓国の通貨ウォンも急落している。
こんな状態では、首脳たちは討議の間も自国の株価や為替の動きから目を離せないに違いない。しかし、市場原理至上主義に立った米国流金融資本主義が行き詰まった今ほど、アジアと欧州との連携が必要な時はない。
約10年前のアジア通貨危機を思い起こす。タイの通貨バーツの急落が引き金になって、危機の波がインドネシアや韓国などに広がった。
米国の強い影響下にあるIMFは緊急支援と引き換えに経済改革を求めた。各国はその痛みに耐えて経常収支を黒字にし、外貨準備を積み増す努力を続けた。いまアジアの状況が欧州ほど深刻でないのは、それだけ抵抗力をつけた証しでもあろう。
ASEM加盟国の経済規模は世界の半分、貿易額は6割を占める。いまの金融危機をどう沈静化させるか、アジアと欧州に課せられた責任は重い。
北京ではASEANと日中韓3カ国の首脳会議も開かれる。足元のアジアでの危機を封じ込める手立てを話し合ってもらいたい。この経済危機は地域の連携を深める契機になるだろう。
欧米の景気後退が深刻になれば、アジアも安閑とはしていられない。
金融危機に備えた手立てとして、日本はかつて、各国の外貨準備をプールするアジア通貨基金構想を打ち出したことがある、だが、米国の反対で実現しなかった。
その代わりにできたのが「チェンマイ・イニシアチブ」と呼ばれる仕組みだ。金融危機の際に資金を融通しあう協定を二国間ごとに結び、ネットワークを作った。ただ、手続きが煩雑なほか、日中韓と東南アジア5カ国しか参加していない。もっと使い勝手をよくし、参加国を広げる必要がある。
多国間の協定にし、金融部門の現況を監視しあう案も検討されている。首脳はこれを実現させる政治意志を明確にし、具体的な合意を急ぐべきだ。
米国もこうしたアジアの試みに反対はしまい。日中の協力がカギを握る。
その先にアジア通貨基金の創設、さらにはユーロのようなアジア版単一通貨も視野に入れたい。統合を深める欧州がその手本を示している。
政府の社会保障国民会議が、2025年に予想される医療・介護費と、それをまかなうのに必要な財源の推計を公表した。
病院の医師や職員を大幅に増やし、介護施設やグループホームを今の倍にして、医療と介護の質を高める。お年寄りの増加に伴って膨らむ費用を加えると、約14兆円の新たな公費負担、消費税に換算して4%の引き上げが必要になる、といった内容だ。
これまで医療費の推計といえば、過去の医療費の傾向や人口の変化をもとにした将来予測と、それをどうやって抑えるかが議論の中心だった。
今回、望ましい医療や介護の姿、必要なサービスに目を向け始めたことは、抑制一辺倒だった政策を改める新たな芽として歓迎したい。
もちろん、今回の推計にも医療費の抑制策は織り込まれている。一般病院での治療に手厚く人を配置してリハビリに力を入れる代わりに、今は平均で20日の入院期間を半分ほどに縮める。医療から介護へ、施設から在宅へ、という流れをさらに推し進めることが前提になっている。
そうした抑制策をとってもなお、医療・介護費は最低限これだけ膨らむということだろう。
今回の推計には、政府・与党が言い出した後期高齢者医療制度の見直しのことは入っていない。見直しの内容しだいでは、さらに公費を投入しなければならないこともあるだろう。
推計では、新たに必要となる保険料は12兆円だ。どの世代がどのくらい負担するのかははっきりしないが、保険料の引き上げには限度がある。保険料の上昇を抑えるために、ここでも公費の投入が必要になるかもしれない。
そう考えていくと、本当に消費税4%分の引き上げで医療・介護費の増加をまかなえるのか、心配になる。
だが、何より問題は財源をひねり出す道筋がはっきり見えないことだ。
麻生首相は、国民会議座長の吉川洋・東大大学院教授を経済財政諮問会議の民間議員に据えた。社会保障と税財政の改革の議論を一体で進めるという。ところが一方で、「日本経済は全治3年」として、3年間は消費税を引き上げない考えを示している。
今の経済情勢のもとで、ただちに国民に負担増を求めることが難しい事情もわかる。だが、国民の安心を言うならば、社会保障の将来像とともに、どのように財源を裏付けていくのか、具体的な工程表を示すべきだ。そのことは政権を奪おうとしている民主党にも求められている。
もちろん、その際には、すでに足元で広がっている医師や介護の担い手の不足への対応も忘れてはならない。そこをおろそかにして、将来のビジョンだけを語っても、説得力に欠ける。