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2008年10月24日

◎ルーブルと交流 美術の面からも「熱狂の日」を

 世界の美術館の頂点に立つパリ市のルーブル美術館と金沢市の金沢21世紀美術館が、 将来的に合同企画展も想定した交流に乗り出すことを歓迎したい。企画展が実現すれば、金沢にいながらルーブル所蔵の美の至宝に触れることができる。フランス発祥の「ラ・フォル・ジュルネ金沢」が今春、良質のクラシック音楽に親しむ場を市民らに提供したように、美術の分野でもルーブル発の「熱狂の日」を実現させたい。

 また、展覧会の相互開催は、21世紀美術館の国際的な知名度アップもさることながら 、工芸を中心に美術王国石川の秀作がルーブルで展示されることで、ミシュランによる兼六園の「三つ星」効果と合わせ、ヨーロッパで日本の歴史文化都市・金沢への関心が一層高まることも期待される。こうした交流が早期に実現することを望みたい。

 二館の連携は、訪仏中の山出保金沢市長とルーブル美術館のアンリ・ロワレット館長と の間で一致したそうだが、ルーブルは同館長の就任以来、サイトを刷新し所蔵する三万五千点をパソコン公開する一方、UAEのアブダビに「ルーブル」の名を冠した美術館の建設を約六百億円で許可すると報じられるなど、国内から「魂を売るな」とも非難された矢継ぎ早の世界戦略を進めている。

 近年、日本への所蔵品の貸し出しも増えており、各地でルーブル展が開催されている。 21世紀美術館については、フランス北部のランスに建設中のルーブル分館の設計が、同じ日本人設計者の手によることから、ロワレット館長も二年前に金沢に視察に訪れ、その自由な雰囲気を高く評価した。当面は情報交換や人的交流を考えているようだが、軌道に乗れば、「姉妹館」的要素も加わって企画展の実現に期待が持てるだろう。

 ルーブルには、マリー・アントワネットが好んだ漆箱が所蔵されており、現地の愛好者 には、西洋にない神秘的な漆芸への関心が高いとも言われる。石川の工芸が最高の舞台で展示されれば、欧州から人を呼ぶ効果も高まり、北陸新幹線の開業に向けて金沢の魅力付けの強力な後押しにもなろう。

◎対北エネルギー支援 「拉致進展」の原則に試練

 ブッシュ米政権が北朝鮮をテロ支援国家とみなす指定の解除に踏み切ったことから、核 無能力化の見返りとして行う北朝鮮へのエネルギー支援に関して「日本の分」をオーストラリアやニュージーランド、欧州諸国の一部に肩代わりしてもらう案が浮上してきた。

 こうした肩代わり案は拉致問題に進展がなければ支援はしないとする日本の原則に対す る厳しい試練だ。金融危機やイラク戦争の後始末、アフガニスタンにおけるテロとの戦い等々によって戦費が膨大になった米政府が思いついたアイデアのように思われる。が、そもそも日本は指定解除に反対なのだから、ここで原則を曲げるわけにいかない。

 米政府の指定解除は、北朝鮮に対する大きな譲歩だった。なぜなら、北朝鮮が六カ国協 議に提出した核計画申告に対する検証について米政府は当初、厳しい方法を突きつけたが、北朝鮮がそれに反発し、二度目の核実験も辞さないとも受け取れる動きを示したため、協議を壊すわけにいかないと厳しい方法をやわらげたのである。

 すなわち、米朝が合意した検証方法には北朝鮮が申告しなかった核関連と見られる施設 への立ち入り検査を行う場合、同国の同意が要るとの逃げ道がつくられたのである。このため米国内でも北朝鮮の核放棄はあり得ないとする見方があるのだ。

 日本が原則を譲ってエネルギー支援をすれば、北朝鮮の思うつぼであり、原則を貫けな いひ弱さは国際社会の物笑いになる。

 開き直って言えば、肩代わりも結構ではないか。それで原則が守られるからである。そ うした例は歴史上少なくない。はやい話が、第一次世界大戦後、戦後処理をめぐって勝った英仏側がもめたとき、愛想を尽かした米国は立て替えた戦費を英仏側に厳しく請求し、英仏側はそれを払うために負けたドイツから補償を取り立て、米国はドイツの復興に金を出したのである。

 要するに、形を変えても原則を貫くという粘り強さを日本は歴史から学ぶ必要があるよ うだ。


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