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【社会】

都内の周産期医療センター 綱渡り救命体制

2008年10月24日 07時07分

どの病院で受け入れ可能かを〇か×かで示す東京都のオンライン端末「周産期医療情報ネットワーク」の表示画面(都提供)

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 妊娠九カ月の東京都内の女性(36)が、相次いで病院に受け入れを断られ、脳内出血で死亡した問題は、二十四時間態勢の「周産期母子医療センター」制度が十分に機能していない実態を浮き彫りにした。慢性的な医師不足や集中治療室(ICU)の満床に加え、当直を挟んで四十八時間勤務という過酷労働の医師もいる。センターに指定されている各病院では「現場の医師の負担が重過ぎる」と訴えている。 (橋本誠、出田阿生、神田要一)

 同センターは一九九六年、緊急や重症の妊産婦と新生児を救うために制度化され、全国でスタートした。都内には新生児集中治療室(NICU)と母体集中治療室を備えた総合センターが九施設、NICUだけの地域センターは十三施設ある。今回、女性の受け入れを拒否した八病院のうち、どちらかに指定されている病院は、当初拒否した都立墨東病院など六つあった。

 女性が脳内出血を起こした今月四日夜、順天堂医院には当直医が二人いたが、それぞれお産に対応。産科だけでなく、婦人科のベッドも満床だったため、「受け入れ不能」と回答した。病院関係者は「年間八百件以上のお産を扱い、分娩(ぶんべん)室、陣痛室にも妊産婦を入れて何とか対応している。慢性的な医師不足が元凶だ」と訴える。

 日赤医療センターも「六床ある母体集中治療室が満床で、当直医三人は他の妊婦の搬送に対応していた」と説明。担当者は「NICUは常時いっぱい。産科ベッドが空いていても、NICUが満床だと、周産期医療では受け入れられないことになっている」と言う。

 東京慈恵会医科大病院は「産科は当直の常勤医が二人いて受け入れは可能だったが、九つのNICUのベッドに空きがなかった」(広報課)。担当者は「できるだけのことをしたい気持ちはあるが万全な体制が整っていない中で適切な処置ができるかという不安もある」と話す。やはり十二床あるNICUが満床で断ったのは日大板橋病院。常勤医三人がセンターの当直を行い、足りなければ自宅待機の医師を呼び出す体制になっているものの、担当者は「新生児の容体が良くなっても、受け入れ先の病院が見つからない。長期間いる新生児が多くなり、空いても次の子が入るので満床が続いてしまう」と打ち明けた。

◆要請なかった病院でも…状況同じ、不安の声

 妊婦の受け入れ要請を拒否した八病院以外の周産期母子医療センターでも、医師不足や新生児集中治療室(NICU)の慢性的な満床などで、特に当直時間帯の受け入れには慎重な意見が多かった。

 愛育病院は「常勤医は十一人いるが、お産件数は昨年が千八百件超。医師が十分足りているとはいえない」と説明。今春から同じ港区内の東京都済生会中央病院がお産の取り扱いを休止。産科医が逮捕され、無罪となった福島県立大野病院事件の影響もあって、「この一−二年ほど、開業医も産科を休止するところが相次ぎ、妊産婦が集中している」といい、NICUは常に満床状態という。

 杏林大病院の岩下光利教授は「多摩地区では都内のお産の30%以上が行われるが、センターは杏林しかなくパンク状態。医師の四十八時間勤務もあり、過労死も出かねない。医師は一・五倍から二倍は欲しい」。昭和大病院の大槻克文産婦人科医局長も「センターの医師は十二人だが、大いに不足している。集中治療室も産科ベッドも週の半分以上は満床」と訴える。

 東邦大医療センター大森病院では三、四人の医師が当直に当たるが、担当者は「全員が熟練した医師とは限らず、研修医もいる。医療ミスをすると訴訟になる現状で、研修医がハイリスクな患者に対応できるのかという問題もある」と話す。

(東京新聞)

 

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