政府の地球温暖化対策推進本部は、二酸化炭素(CO2)の排出量取引の試行制度の内容を正式決定し、参加企業の募集を始めた。
排出量取引は、京都議定書で導入が認められた制度だ。CO2の削減目標の達成が困難な企業が、目標を上回って達成した企業から「排出枠」を購入する。試行制度では、企業などが任意で参加し、削減目標も自主的に設定できるなど、導入に消極的だった産業界に配慮した内容である。
欧州連合(EU)は二〇〇五年から域内で排出量取引市場を設立し、米国でも導入が始まったところだ。福田康夫前首相は、六月に地球温暖化対策に関する「福田ビジョン」を発表し、今秋の試行を提唱していた。温暖化対策に積極的に取り組む姿勢を示し国際的なルールづくりで主導権を狙ったのだろう。
試行制度には問題点がたくさんある。EUのように企業の参加を義務付けておらず、必ずしも排出総量の削減につながらない。削減目標は、排出総量でも、単位生産量当たりの排出量でも認められる。目標を達成しても生産量が増えれば、排出総量が減らない場合もある。目標を守れなくても罰則がないのも問題だろう。
企業が自主的に決める削減目標は、政府に申請し妥当性について審査を受けることになる。いい加減な目標設定では、削減目標の達成は容易だ。厳格な審査が重要になる。
ところが、政府は個々の参加企業が目標を達成したかどうかについて公表しない方針という。これでは制度がどの程度機能しているのかなど、外部から検証するのは困難だ。実効性のある制度にするためには、透明性を高めておく必要がある。
産業界が導入に消極的だったのは、電力や鉄鋼業界などで、削減義務を負わない中国などとの競争で不利となることが大きい理由だ。温室効果ガス削減で努力してきた上に、さらに排出量の購入でコストがかさむ。
排出量取引の義務的制度が将来、本格実施されるかどうかは不明だ。麻生太郎首相は「温暖化対策は単なるコストではなく将来への投資」と述べ「まずやってみる」姿勢を強調している。
制度への参加が排出削減や技術開発につながったかなどを検証し、経験を積みながら、日本型モデルを磨き上げていくことが大切である。
排出量取引は温室効果ガス削減のための一つの手段にすぎない。一層の省エネや新エネルギー開発など官民挙げての努力を忘れてはならない。
政府は、十月の月例経済報告で景気の基調判断を「弱まっている」と、二カ月ぶりに下方修正した。米国発の金融危機の影響で、後退局面入りしている国内景気が一層深刻化しているとの認識を示したものだ。
月例報告では、輸出や生産、業況判断に加え、個人消費や雇用、倒産件数と計六項目を下方修正した。六項目同時の下方修正は一九九八年四月以来、十年半ぶりのことだ。金融危機の悪影響が日本の実体経済にも及んでいることが浮き彫りにされたといえよう。懸念されるのは景気後退の長期化である。
これまで景気をけん引してきた輸出は「緩やかに減少」に変更された。自動車など欧米向け輸出の低迷は深刻だ。一けた成長に落ち込んだ中国など新興国向けも弱含んできた。
不動産や建設などを中心に倒産が増加し、雇用情勢も「弱含んでいる」から「悪化しつつある」に改められた。企業の生産や設備投資も減少、景気を下支えしてきた個人消費も冷え込んでいる。
内外需とも総崩れといった状況だ。景気の先行きに対しては、世界経済の減速感が強まることや、株式・為替市場の変動など懸念材料が列挙された。与謝野馨経済財政担当相は「景気の状況がさらに厳しいものとなるリスクが存在する」と危機感をにじませた。もはや外需頼みの回復シナリオは通用しない。
日銀の十月の地域経済報告でも、地域経済の減速が一段と鮮明になるなど景気の先行きは不透明感を増すばかりだ。政府は月末に追加経済対策を取りまとめる。景気後退の痛みを和らげる対策だけでなく、金融危機に伴う景気悪化が長期化した場合の備えが必要となろう。日本経済の体質強化につながる実効性ある政策が求められる。
(2008年10月23日掲載)