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社説

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妊婦死亡―救急医療にもっと連携を

 大都会の救急医療に、ぽっかりと大きな穴が開いているようだ。

 東京都内で、具合が悪くなった出産間近の36歳の女性が七つの病院に受け入れを断られた。約1時間15分後に病院に運ばれて出産したものの、3日後に脳内出血で亡くなった。

 同じようなことが一昨年、奈良県でもあった。入院中の妊婦が重体になり、転院が必要になったが、隣の大阪府も含めて19病院に受け入れを断られ、やはり脳内出血で亡くなった。

 背景には、全国的な産科医不足がある。急な患者を受け入れる余力が、医療機関に乏しくなっているのだ。

 それにしても、医療機関がたくさんあるはずの東京で、と驚いた人も多かったのではないか。厳しい条件の中でも、なんとか急患を受け入れる態勢をつくるにはどうすればいいのか。今回起きたことを点検し、今後のために生かさなければならない。

 亡くなった女性は下痢や頭痛を訴えた。かかりつけ医の手に負えないことから、受け入れ先を探した。

 最初に連絡したのは、危険の大きい出産に24時間対応するために都内に9カ所置かれている総合周産期母子医療センターの一つ、都立墨東病院だ。

 ところが、墨東病院では産科医が減ったため、7月からは週末や休日の当直医は1人になり、急患の受け入れが原則としてできなくなっていた。

 この日は土曜日だった。1人だけの当直医は受け入れを断り、他の病院を紹介したという。紹介した病院にも「空きベッドがない」などの理由で次々に断られ、墨東病院は2度目の依頼で医師を呼び出して対応した。

 総合周産期母子医療センターは最後のとりでだ。そこが役割を果たせないようでは心もとない。産科医不足という事情があるにしても、東京都には急患に備える態勢づくりにさらに努力してもらいたい。

 いくつもの病院で受け入れを断られた背景には、都市圏ならではの要因もある。地方と違って医療機関が多いため、ほかで受け入れてくれると考えがちなのだ。

 そうした考えが、危険な出産に備える医療機関のネットワークが必ずしも十分には機能しないことにつながる。医療機関同士でもっと緊密に連絡を取り合うことに加え、ネットワークの中で引受先を探す司令塔のような存在をつくることも考えたい。

 もう一つ大切なことは、全く別々に運用されている産科の救急と一般の救急の連携を強めることだ。産科の救急で受け入れ先が見つからないときは、とりあえず一般の救急部門で受け入れる。そうした柔軟な発想が必要だ。

 医師不足を解消する努力はむろん大切だが、病院や医師の間で連携に知恵を絞ることはすぐにでもできる。

中国経済―世界を下支えできるか

 米国を震源とする世界同時不況が広がる中で、「世界の工場」中国の陰りが明確になった。国際経済を支えてきた柱の一つだけに、どこまでブレーキがかかるのかが心配だ。

 中国の国家統計局は、7〜9月の国内総生産(GDP)実質成長率が昨年同期比9.0%だったと発表した。今年は年間で、6年ぶりに10%を割ることがほぼ確実になった。

 減速の大きな要因は輸出の縮小にある。大輸出先の米国の景気が落ち込むにつれて、繊維、玩具などをつくる沿海部で工場の閉鎖が相次いでいる。広東省では、閉鎖した玩具工場の従業員7千人が解雇され、数千人が未払い給料を求めて工場に押し寄せた。

 もともと北京五輪後には「五輪景気」の反動が来ると心配されていたが、世界同時不況が重なってしまった。かつては過熱が懸念された中国経済の大きな転換点になりそうだ。

 中国の減速は世界にとっても痛い。米国では金融市場の混乱が続き、景気の悪化はむしろこれからが本番だ。「少なくとも全治数年」との見方が広がる。米経済が復調しても、以前のように世界中が対米輸出に依存するのは望ましくもなかろう。となると、どこが世界経済を下支えできるのか。

 日本は人口減少社会に入り成長力に陰りが見えるため、日本に期待する声は少ない。欧州連合(EU)への期待もあったが、金融危機が延焼して欧州経済もいま失速しつつある。

 期待されるのがBRICsとよばれる新興国、とりわけ成長著しい中国だ。いまやGDPで世界4位。2010年代には日本を、30年代には米国を抜いて世界一になるとも予測されている。中国ほど潜在力をもつ国は見あたらない。同じ新興国でも、ロシアやブラジル、インドの経済規模は、中国の半分から3分の1にすぎない。

 中国政府は経済発展を維持するために内需振興をめざす。当面の対策として、輸出のてこ入れもしつつ、農業補助金の拡大や中小企業への融資増、産業基盤や民生分野のプロジェクトへの投資などを進める方針を決めた。

 中国は毎年1千万人の新規雇用を確保し、成長の成果を貧困層へも広げて社会を安定させるために、毎年7〜8%の成長を必要としている。政府が経済減速に歯止めをかけようとするのはそのためだ。

 巨大な人口と潜在的な成長力をもつ中国の動向は、いまや世界全体を左右する重みをもっている。その影響は、貿易や投資・金融の分野はもちろんのこと、資源エネルギー問題から地球環境の保全にまで及ぶ。

 成長を維持しつつ、社会的にも調和がとれ安定した経済へ移行していく。欲張った注文ではあるが、中国にはそんな姿をめざしてほしい。

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