狂おしいほどの熱気で独自の板画世界を切り開いた棟方志功と献身的に支えた妻チヤ。波乱万丈の人生を生き抜いた夫婦の愛情物語「我はゴッホになる!」(フジテレビ系、25日午後9時)で、志功を励まし叱咤(しった)する民芸運動創始者、柳宗悦を演じている。
「昭和の初めという時代の色を出すお芝居をしないとね」と、ご覧のひげ姿。
棟方夫妻に扮(ふん)した劇団ひとり、香椎由宇(かしいゆう)の熱演の傍らで、凜(りん)とした仁左衛門のたたずまいがドラマをピリッと引き締める。
志功と宗悦。出会いでは「ただものじゃないな」と志功の板画芸術を評価した宗悦だが、売れてくると「もっと仕事を煮つめなさい」とたしなめ、「もっと静かな境地にたどりつくのだ。無駄がとれ、最後に残るものだけ残ったら、素晴らしいものとなる」と無心の境地を示す。厳しさと優しさが交じり、説得力十分!
「愛情をもった苦さ。わざと苦言を呈し、憎まれ役を買って出たんですね。今の世の中、褒めるばかりで、こういう人は少なくなりました。僕は割と言うほうです」
孝夫時代には大河ドラマ、2時間サスペンスなどで男の色気を発する二枚目役が多くのファンを引き付けたが、98年の第十五代仁左衛門襲名以来、テレビ出演は激減した。
「年寄りの役が来るのでお断りしていただけ。まあ、結構おじさんになっていますけどね。以前、イチローさんが『古畑任三郎』に出演しているのを見て、素人さんがあれだけすてきな演技ができるのかと私、恥ずかしくなりました。テレビは好きですから、これからも」とテレビドラマ復活宣言。【網谷隆司郎】
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■人物略歴
1944年、大阪府生まれ。熟年の生き方は、「いいことだけ覚えておいて、他は早く忘れること。仕事も人生も常に旬でいたい」
毎日新聞 2008年10月23日 東京夕刊