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歌舞伎:大老(国立劇場) 苦悩する直弼像見せた吉右衛門

 十三回忌追善となる北條秀司の作品の通し上演。北條・織田紘二演出。井伊直弼が落命するまでの半生を吉右衛門主演で描く。

 部屋住みの身の直弼は、兄の死により彦根藩の跡継ぎに選ばれる。その後、大老になって幕政を担い、開国を主導するが、安政の大獄を行ったことで攘夷(じょうい)派に命を狙われる。

 直弼の人間的な姿に焦点があてられている。埋木舎(うもれぎのや)でお静(魁春)と夫婦同様に暮らし、師と仰ぐ長野主膳(梅玉)と幕府の弱腰を憤っていた直弼も、幕閣に加わると、思考が現実的になる。

 住まいは小さな埋木舎から江戸屋敷となり、多くを共に過ごす相手も、お静から正室の昌子(芝雀)に変わる。だが、直弼がひたすら懐かしむのは埋木舎とお静であった。

 自分を暗殺しにきた次之介(歌昇)の命を助けようとし、攘夷派の処分が重すぎはしないかとためらう。冷酷果断な能吏とは程遠い、苦悩し、揺れ動く直弼像が浮かび上がる。

 序幕の「埋木舎」で仏門入りを仙英禅師(段四郎)に願うほどに世をすねた風情と井伊家継嗣に決まった喜びの表情を、吉右衛門がうまく対比させた。桜田門外の変の前日である「井伊家下屋敷一室」では、お静との情愛を切々と見せる。作中一の場面だ。

 魁春がお静を娘らしい風情を残す愛らしい女性として描き、梅玉は理念を守り通す主膳のひたむきさを表現した。芝雀が鷹揚(おうよう)な雰囲気を出し、段四郎がひょうひょうとした高僧ぶりである。27日まで。【小玉祥子】

毎日新聞 2008年10月23日 東京夕刊

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