伊賀市の診療所「谷本整形」の院内感染問題で、県伊賀保健所は22日、診療所への立ち入り検査を行い、診療所が提出していた再発防止策が「確実に実行できると認識した」として、診療自粛要請を解除した。しかし、検査終了後、谷本広道院長は報道陣に対し、「今のところ診療再開は考えておらず、全くの白紙」と話した。【傳田賢史】
診療自粛要請は問題発覚の6月10日に出され、診療所はそれを受け、現在休診中。
谷本整形は今月15日までに、院内感染の原因分析と再発防止策をまとめた業務改善報告書を県に提出。伊賀保健所が17日、再発防止策が実行できるかを確認するために立ち入り検査を実施した。しかし、「職員への改善策の周知が不十分」として再検査することになった。
この日は、保健所職員ら6人が診療所の職員に対し、再発防止策の理解度や具体的な手順などを約3時間かけて確認した。終了後、伊賀保健所の中山治所長は、「診療を再開しても差し支えないと判断したが、今年度内にもう一度立ち入り検査を実施する。谷本院長には、被害者の心情に十分配慮すること、事前に再開を報告するよう伝えた」と話した。
検査後、診療所前に現れた谷本院長は、「今のところは被害に遭われた方への謝罪が先。誠に申し訳ない」と改めて陳謝。院内感染の原因については、「私自身が点滴作り置きを認識していなかった。誰も指示をしていないと思う」と従来の説明を繰り返した。
谷本整形で点滴を受けた後に死亡した市川満智子さん(当時73歳)の夫、篤さん(78)がこの日朝、毎日新聞の取材に応じ、「私が何を言おうと(県の診療自粛要請解除で)、診療は再開されるでしょう。もう思い出したくない」と声を落とした。
満智子さんは6月9日に点滴を受け帰宅。翌10日に亡くなっているのを、篤さんが見つけた。「(満智子さんは)拳を握り、苦しそうな表情で死んでいた。(点滴作り置きのような)えらいことをしてると分かったら行かせなかったのに」
篤さんは、谷本整形の点滴を受けて最初の入院患者が出た後の、県の対応も批判する。「最初に患者が出たときに、県は他に点滴を受けた人を調べて、安否を確認すべきだった。(満智子さんは)点滴を受けた日の晩には体調が悪くなっていた。県から連絡を受けていれば、病院に連れていくこともできた。ほかの人は皆助かっているのに、気付いてやれなかった……」と泣き崩れた。【傳田賢史】
〔伊賀版〕
毎日新聞 2008年10月23日 地方版