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医療隔てる県境の壁 岡山・井笠地方、生活実態とずれ '08/10/23

 ▽救急搬送や医師不足

 広島県と接する笠岡市や井原市で県境をまたいだ医療課題が浮上している。「福山市への救急搬送を円滑に」「連携し医師不足を補いたい」。住民ニーズを知る消防や市は、県境にこだわらない「生活医療圏」づくりを期待するが、調整を担う県の動きは鈍い。そんな街を知事選の選挙カーが名前を連呼し走った。二十代の母親は「命を守る工夫を聞きたい」とつぶやく。

 笠岡市西部の主婦(55)は二年前の五月、自宅で夫=当時(54)=の顔から血の気が引いたのに気づき一一九番した。救急隊員から搬送先希望を尋ねられ、健診を受けていた福山市内の病院を告げた。

 「受け入れ不可との返事です」。夫は結局、笠岡市内の病院に運ばれ約三十時間後に腎不全で亡くなった。笠岡地区消防本部は「かかりつけ医と分かれば受け入れを強く要請する。重篤に見えなければ通常は管内搬送になる」と説明。主婦は「私も動転していた。希望通りなら助かったかもと今も思う」と目を潤ませた。

 二〇〇七年の管内の救急搬送三千百五十三件のうち、福山市へは百七十八件(5・6%)。倉敷市の五百二十八件(16・7%)の三分の一だった。「市民ニーズは逆。生活圏が一体化し交通事情も良い福山への希望が実現しにくい面がある」(警防課)という。

 福山市の救急当番病院名が県境を越えては提供されないなど障壁があり、同本部は六月、笠岡医師会(百二十一人)などに改善への協力要請をした。

 福山市保健所は「患者増による救急病院の疲弊もあり、情報提供は控えた。両県を交える協議があれば改善に向け加わる」と言う。

 井原市は医師不足にも悩む。市民病院は小児科常勤医師が二人減の一人になり、〇三年秋から小児夜間救急に対応できていない。市内唯一だった同病院の産科も医師退職で〇六年八月、分娩を休止。井原医師会(四十一人)の会員は四年間で三人(6・8%)減った。

 市は昨年十一月、地域医療充実へ協議会を設置。県が定めた県南西部医療圏(笠岡・井原・浅口・倉敷・総社市、里庄・矢掛・早島町)の医師約千七百人の八割、約千四百人が倉敷市内という偏在ぶりを明らかにした。

 協議の席上、滝本豊文市長が市民の出産の七割が福山市内との数字を挙げ「倉敷より福山が近い地域性の考慮を」と県境で線を引く既存の医療圏にこだわらない対応を県に求める一幕もあった。

 ▽県、広島との連携進まず

 救急対応や医師不足の課題―。解決への提言もある。今年二月、福山市民病院の浮田実院長は井原市議会地域医療特別委で同病院の入院患者の約二割が井原市民と明かし、住民の生活実態に沿う「生活医療圏」づくりが大切との考えを示した。

 これらも受け県は広島県に呼び掛け同月末、医療対策担当者の意見交換会を岡山県庁で初めて開き、定期開催を申し合わせた。二回目の会合はしかし、予定の五月を過ぎても開かれないままだ。

 広島県健康福祉局は「救急搬送はルールを定めたい。開催を打診している」。岡山県保健福祉部は「幹部の人事異動もあり、話はしていない。予定も入っていない」とする。

 県境地域の救急・医療関係者が意見交換会の発展と県の調整力に寄せる期待は大きい。それは有権者の思いでもある。(杉本喜信、佐藤正明)




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