2008-10-14 専門家が犯す間違い(医療関係)

フジテレビ「サキヨミ」で秋葉原通り魔事件でのトリアージを扱かった報道はジャーナリズとして大変よい番組だった(私はそれを見たのでここで読める、また追加情報はここに書いた)。しかし一部ブログではなぜか評判がよくない。そのひとつがこれ「サキヨミのトリアージ批判について考える」(http://case-report-by-erp.blog.so-net.ne.jp/20081007)だろう。
そこでコメントを書いている人の間違いは下記で総括できると思うので備忘録のために再掲しておく。
以下は日々是よろずER診療の「サキヨミのトリアージ批判について考える」のコメント欄に2008/10/16 16:15に投稿したもので、削除された為、2008/10/19 02:20に再投稿したもの
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石部金吉さんへ
あなたの答えは、私のブログで自分の欲求不満解消のために駄文を書き連ねた方とよく似ていて、まったく答えになっていませんね。このように自分ががきちんと答えることができないのに、それを答えだと錯覚する人がいるのは面白い現象です。
>こうした規模・条件の事件にこそトリアージは必要
「こうした規模・条件の事件」とは何か、具体的に述べなさい。しかし秋葉原事件で何が起こり、どんな対処がなされたかは非公開の消防庁の検証報告にしか書かれていない事であり、あなたがそれを知っているはずがない。
あなたはそれなしにどうして自分が答えられると考えたのですか?そういう意識のまま、平気で回答と称するものを書くこと自体が「問題を理解していない証拠」ですね。すなわちあなたは、秋葉原で何が起きたかは、自分では知りもしないのに自分の基準を勝手にただ述べているだけです。それは説明抜きに「ともかく必要だ」という結論の押しつけに他なりません。
>トリアージをしなかったために被害が拡大してしまった事件も、歴史上、沢山あったと「思う」
思うではなく、具体的に説明すべきです。「××だと思う」ならどこぞの中学生でも誰でもいくらでも書けますよ。そして「思う」ではなく具体的に見ていくことで今回の秋葉原での事件でのトリアージの要否も「あなたが自身がより実際的に分析」でき、あなた自身の反省の材料となるでしょう。
>(黒タグ基準は)世界共通です。
フジテレビ「サキヨミ」では英国での事例では黒タグの数がまったく異なり、日本とは明らかに異なった措置があった事が述べられていました。あなたはそれを知って書いているのか?それを知らないならそんな事も知らないほど、あなたがこのトリアージについて無知であるという事です。
もし知って書いているならそれは一般人への「欺瞞」以外の何物でもない。
なぜか?あなたの説明は「原子力発電所は安全基準内で作られている、だから安全だ」という意味のない説明とまったく同じだからです。あなたは実際には世界共通ではないのに、専門家の説明と称しただその「言葉だけ」を繰り返す。しかしこうした問題では実施側には、その安全基準で作ればなぜ安全と言えるか一般人に説明する義務がある。ここで残念ながら多くの「駆け出しの専門家」は安全基準をいかに守ったかは細かく答えられても、<安全基準そのものの正しさ>を説明できません。それは専門家にとっても、より難度の高い問いだからです。
こうした専門性の強い事件では「専門家が××と言えばそれが正しい」という錯覚が、特に専門家の間でも見えますね。しかし不特定の多くの人が関係する問題では、何も知らない一般人が納得する説明が求められ、それに答える事が本当の回答でしょう。
専門家が犯す間違い と断定的にかけてしまうことにこのブログ主の思考パターンを感じ取ることができるような気がします。
自分の考え=正しい 自分とは異なる意見(異見)=間違い
というとらわれです。
どうか、ご自信でそれにお気づきになれば、いいなあと思っています。
人は、言われても、すぐには、納得できないでしょうから。
日々是よろずER診療から
http://case-report-by-erp.blog.so-net.ne.jp/20081015
読み易いように適時改行しました。
今回の秋葉原事件と比較されるイギリスの大規模災害(なぜか黒タグ2枚しか使わなかった)というのは、
2007年7月7日に起こったロンドン同時爆破事件のことですね。これについては Lancet に詳細な報告が
出ているので紹介します。
できれば皆さん、原著で読んでみてください。小説を超える臨場感がありますよ。
Lancet 2006; 368: 2219-25
【以下、内容要約。 「→」 は私のコメントです】
2005年7月7日午前8時50分にロンドン市内の地下鉄3ヶ所で爆発が起き、さらに9時47分にバスの爆発が起きた。
被災者は合計で775名、うち現場で死亡と判断されて医療機関への搬送の対象外となったものが53名であった。
うち2名は一旦はトリアージ対象とはなったが、結果的に黒タグと判断された
(→ 黒タグ2枚の正体。51名はトリアージすらされず、死亡とされた)。
667名は緑タグと判断されて簡単な手当てを受けたものが349名、手当ても受けなかったものが318名であった。
以上、53名の黒タグ相当と667名の緑タグをのぞく55名が赤タグまたは黄タグと判断されて近隣医療機関に搬送された。
最も中心的な活動を行った王立ロンドン病院では、最初の被災者到着(赤タグ)が災害発生より1時間30分後で、
その15分後に救急室内の被災者数がピークに達した。最後被災者到着は赤タグが災害発生より2時間30分後、
黄タグが4時間30分後である。
受け入れた被災者は赤タグ8名、黄タグ19名であったが、再トリアージの結果、黄タグの2名は赤タグになった(→ いわゆる
アンダートリアージ)。赤タグに対しては多人数からなる外傷チームが対応し、黄タグに対しては医師1名看護師1名を1チーム
としてそれぞれに対応した。緑タグも多数受け入れたが、院内の全く別の部門で対応した。
同病院で災害発生時に行っていた予定手術は6例であるが、11時30分前後には全室被災者用に使用可能となった。
被災者の最初の手術は10時45分に開始された。以後の14時間に17名に対して最大7並列で手術が行われ、264単位の
輸血が使用され、うち赤血球は130単位であった。手術はダメージコントロール主体であり、術者は必ずしも外傷専門医
ではなかった(→ 普段は癌などを切っている一般外科医だろう)。
開頭・開胸・開腹手術は数としては多くなく、四肢切断やデブリ(壊死組織切除)がメインであった。
病院到着後に死亡した赤タグは王立ロンドン病院で2名、他院で1名であるが、いずれも救命不可能であった。
合計27名の赤タグ・黄タグのうち、事後にオーバートリアージであったと判定されたものは10名である(→ 現場のトリアージで
重症にとりすぎていたのが10名という意味です)。
4ヶ所の現場で最初のトリアージが行われたが、オーバートリアージ率が最も高かったところでは88%、最も低かったところでは
27%であった。前者では救急隊や通行人(医療従事者)がトリアージを行い、後者では専門家である London-HEMS が
トリアージを行った。その結果が、このような数字となったものと思われる(→ 医療資源を浪費してしまうオーバートリアージも
一種のトリアージミスになります。ただし、アンダー、オーバーとも起こり得るものとして、許容範囲が数値で決められています)
以下、オクラホマ、ブエノス・アイレス、ベイルート、9.11事件などとの比較がされていますが、これらは省略します。
【以上、内容要約終わり】
いやあ、さすがにランセット凄いです! このような報道を我が国のテレビや新聞に期待してはいけないのでしょうか。
さて、この記事から読み取れることは、
(1) イギリスの大規模災害では黒タグが2枚しかつけられなかった → 53名の現場死亡者のうち、黒タグをつけたもらった人が
2人だけということのようです。51名は黒タグすらつけてもらえなかったということですね。因みに英語の黒タグには morgue
(死体安置所)と書いてあります
(2) 最初の赤タグの病院到着が爆発発生から1時間30分後、最後の黄タグ到着は実に4時間30分前後かかっている → 「腹部
を刺されて重傷を負った30歳代の女性は57分、右胸を刺されて一時重体に陥った50歳代の男性も54分かかっていた」と
いう秋葉原事件についての読売新聞の記事は、いささか悪意に満ちているように思います。ロンドンで1番早い人が秋葉原で
1番遅い人よりも遅かったのですから。
私は、現場の人たちはよく頑張った方だと思いますよ。
(番外1) 日本のトリアージの歴史は1995年の阪神大震災の反省から始まったものと思います。私の友人の医師も震災当時、
来院時心肺停止の被災者に一生懸命蘇生処置を行い、病院中の救急薬品を使い果たしてしまい、その後は丸腰状態になって
しまったそうです。今なら心肺停止(=黒タグ)は後回しにして、赤タグ・黄タグの救命に全力を注ぐでしょう。
〈番外2〉 読売新聞の記事の中に 「今回の事件では発生3分後の6月8日午後0時36分ごろに最初の119番があり、7分後に
1台目の救急車が現場に着いて応援を要請し、30分後には計14台の救急車が現場に到着していた」 とあります。実は、以前に
似たような事件があった時、先着した救急車が事件の重大さに気づいて応援を要請しようとしたところ、「早く病院に連れて行け!」
と通行人たちに詰め寄られ、応援要請どころではなかったということを消防から聞きました。その時に比べると、応援要請することが
できた分、通行人たちも進歩したのかもしれません。
皆様の参考になれば幸いです。
長文、失礼いたしました。
以上です。
「崩壊を眺めるもの」さんが,「なんちゃって救急医」先生の翻訳を紹介して下さっています.
この後に及んでも「翻訳がおかしい」などと言われるならLancetの原文を読まれてはいかがでしょうか?
少なくとも10/6のタイトルを修正するように重ねてお願いします.
通行人たちが詰め寄ったのは当たり前でしょう。
けが人を乗せたら一刻も早く病院に連れて行ってあげてくれと願うのは人間として当然です。
応援要請ぐらい走りながらでもできるでしょう。
>その時に比べると、応援要請することができた分、通行人たちも進歩したのかもしれません。
他にもっと重傷の人がいるかもしれませんからまだ発車しなくていいですよ、救急車の中のけが人にはしばらく待ってもらいましょうというのが通行人の進歩なんですか?
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別にブログ主が注文をつけなくても、石部金吉さんからの回答はないでしょう。答える能力はないと思われるから。
また私の疑問に答えられないという点では、ブログ主もまったく同じですね。ブログ主が終わりにしたがる理由はそこにあるのでしょう。
まあネットでは、A:投稿者に答える能力がなくレスをつけられない(即ち一般的には議論に負けたと言うこと)、B:投稿者が何かの理由で意図的にレスをつけない、も現象としては同じですが、読んだ人がどう感じるかはその方次第でしょう。
>そもそも、何が正しく、何が間違い なんて常に相対的なもの
この方は自分がいかに馬鹿げた事を書いているか、自分で判らないようですね。この人にはその程度の知的能力しかないと言わざるを得ない。そんな状態だから番組「サキヨミ」を実際には見もせず、私の疑問には一つも答えられず、なおかつそれらを批判するという、おかしな行動をとるのでしょう。
何が正しいか決めずに治療行為ができる訳がない。そこに言論分野で許される論争や価値転換などが入る余地はないでしょう。この方はともかく反発したいから単に言葉の上だけでとりあえず書いただけでしょう。まったくお話になりませんね。
あまり、私たちの領域に口出ししないほうがいいですよ。
もうすでに、墓穴を掘ってますが。
さすが、Lancet。
うなってしまいます。
zames_makiさんと僕はだいぶ意見は違いますが、
「情報公開して検証をすすめる」は一致できる点だと思ってます。
消防庁にはおそらくこういう論文を書く文化はなさそうですから、
救急医がすすめていかなくてはいけませんね。
というか、もうやってそうですけどね。情報集めてみます。
一点だけ。
>被災者は合計で775名、
>うち現場で死亡と判断されて医療機関への搬送の
>対象外となったものが53名であった。
>うち2名は一旦はトリアージ対象とはなったが、
>結果的に黒タグと判断された
>(→ 黒タグ2枚の正体。51名はトリアージすらされず、死亡とされた)。
あの評論家の方の質が知れますね。
メディアリテラシー本当に大事ですね。
私はこのLancetが何か知らないが、この情報だけでもすぐ以下の疑問がわく「英国では数箇所で起きた数百人の市民にどんな負傷者が出たのだろうか?黒タグのつけられなかった51人とは、爆発によって死体が四肢分散し物理的に存在を確認できないものなのか?あるいは場所が不明で事件発生自体が即座には確認できないものではないのか?
何にせよ黒タグが2枚しかないというのは明らかに判断レベルが異なる。これだけでは判断できない」
フジテレビ「サキヨミ」では、コメント者の番組内メッセージとしても英国事例をコメント者の根拠には使っておらず、英国事例については疑問を投げかけただけです。もと救急医のような受け取り方は先入観による偏った見方でしかないでしょう。
やれやれ,知らないのなら調べられてからコメントされた方がよかったのでは?
「小学生が,Natureに書かれていることは信じられない」と言っているようなもんですよ.その辺のレベルの低いテレビ番組を盲信するのに,Lancetの論文をそれ以下にしか扱わないというのは通常では考えられないことですよ.
zames_makiとは議論しているつもりはなかったです。
議論になっているかどうかは第三者が判断すればいいことです。
勝ったか負けたか、共感できるかどうかも第三者が決めればよい。
このブログで絶対の真実といえることは、
もはや
zames_makiさんの意見を支持する人はいない
ということです。
僕はそれで十分です。
このブログに書き込んだ目的は果たせました。
まぁ、
言葉遣いの問題とかはマナーの問題ですし、
Lancetなぞは知的レベルの問題です。
議論には直接関係ないですが、
このようなzames_makiさんの発言をどう評価するかは、
皆にまかせましょう。
(ノ_・。)グスン
医学的知識無くても比較的読みやすいと思うんですけど、それは医療者の主観ですかね。
目を通すだけでも面白いと思いますので「Lancetが何か知らないが」とか言ってる暇あったら一読してみる事をお薦めしますよ。払った時間の対価からしか知識は得られんので。
揚げ足取りして人格攻撃して得られるちっぽけな自尊心よりはよっぽど良い物が得られると思うので是非ー。
Lancetを紹介する人は、それが何であるかも当然説明すべきです。それがなければその意味内容も信頼性も不明です。これは私がブログで書いた事にたとえれば、原子力施設の安全審査書の記述を取り出して、この原発は安全だと説明するようなものだからです。その資料は官公庁が出したもので出自は明確で筆者に権威はあっても、そもそもそれだけで事象全体を説明したものではないからです。
こうしたある記述だけを取り出していきなり書き込んで足れりとする行為はネットではよく見かけますが、上記の理由でそれだけではあまり意味がありません。それを説明することが必要です。「コピペ」だけを見て影響を受けてしまうのは上記のような総合的な経験がない、本当の意味での知識や判断力に欠ける中学生だけでしょう。
この「もと救急医」名乗る方の幼稚な発言は、後で取り出して批判コメントつきで掲示する(いわゆる晒すという事)予定ですのでご承知おきください。
Lancetが何かについての説明が無かったですね、すいません。
Lancetはイギリスの医学雑誌で、ロンドンテロの論文も一つ象徴的なのですが、公衆衛生や生命倫理などの社会的な論文が多数掲載される事で有名です。
論文の善し悪しを客観的に評価するは難しいので何とも言えませんが、一応「インパクトファクター」と言う基準があって、これは掲載された論文がどれだけ他の論文に引用されるかを示した数値で、医学生物雑誌で世界中で11番目に引用されてる雑誌みたいですね。http://iroiro.zapto.org/cmn/jb/data2/jb3624.bmp
(インパクトファクターで雑誌の質を評価するってのも賛否両論ですし、Lancetの兄弟誌では局所的にアレな論文がたまに載るって言う局地的な話もありますが、これは余談)
後、論文が掲載される際は必ず専門家の査読が入って、結論づけが一方的であったり考察がイマイチな場合は弾かれます。
zamesさんの日本語を読み違えていたら申し訳無いのですが、「トリアージしている人達がポジュショントークでトリアージを絶賛する論文を載せた」訳では無いです。そもそも論文の内容自体もそういったコンセプトでは無いですし、要旨だけでもお読み頂ければ分かると思うんですが、読んで頂けて無い様で残念です(´_`。)グスン
少なくともテレビに出ている専門家の編集されたコメントとか週刊誌の記者の主観とかよりは信頼性あるんじゃないんですかね。