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医師の過労死を防ぐために

 小児科医中原利郎さん(当時44歳)は、最大で月8回の当直を行うなど過重な労働でうつ病を発症し、勤務先の病院の屋上から身を投げた。部長室の机の上に、「少子化と経営効率のはざまで」と題した“遺書”を残していた。そこには、40歳代半ばで、一般の小児科医の平均の1.7倍に上る月5.7回の宿直勤務が過重になっていることや、看護師らの疲労にも触れており、“医療ミス”を心配する言葉も見られた。妻のり子さんら遺族が起こした民事訴訟の控訴審判決で、東京高裁は10月22日、業務の過重性は認めながら、病院側の「安全配慮義務違反」は否定した。医師の過労死を防ぐためには、何が必要なのだろうか。(山田利和・尾崎文壽)

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 「過労死弁護団全国連絡会議」は昨年11月、舛添要一厚生労働相に「医師の過労死をなくし、勤務条件を改善するための施策の強化について」と題した申し入れを行っている。当直勤務の許可(労働基準法第41条)の適正な運用などを求めた。

 勤務医の一週間当たりの勤務時間は、平均で63.3時間(2006年、厚労省調べ)。これを一か月に換算すると、勤務医は平均で、国が定めた「過労死認定基準」の100時間に当たる時間外労働をしている。同弁護団の代表幹事・松丸正さんは「勤務医の過労死は、特別なことではなく、“当たり前”とされている過重労働から起きている」と指摘する。

 松丸さんは「日本の医師は『聖職者意識』を持ち、患者のためならと自分の身を顧みず、医療に尽くしてきたが、もう“限界”に来ている。医師の過労や当直など連続勤務による睡眠不足がもたらすものは、医療事故であり、過労死だ」と案じる。

 昨年11月、同会議の主催で開かれたシンポジウム「なくそう! 医師の過労死」に出席した小児科医は、「医師の長時間労働で、最大の問題は当直問題」と訴えている。
 当直については、労基法41条が労働者の健康状態への配慮を定め、厚労省の通達(2002年3月)も「当直とは、常態としてほとんど労働する必要がない勤務」と規定している。
 しかし、この小児科医は「実際の当直は、こういうものとは全くかけ離れた勤務を一人でやっている状況で、通常よりも何倍も負担が掛かるような(常態化した)労働だ。当直では、夕方5時から翌朝9時の16時間は、いくら働いても勤務にカウントされない。従って代休もないし、そのまま通常勤務に突入する。もちろん、まとまった睡眠時間は取れない」と語り、その過重性を見直す必要性を強調した。

 控訴審判決では、当直など中原さんの業務を過重とし、うつ病との因果関係も明確に認めた。ところが、労基法が求める労働者の健康状態への配慮を無視した当直業務の可能性を指摘しながら、病院側の「安全配慮義務違反」については否定した。

 判決後の記者会見で、主任弁護人の川人博さんは「これでは、使用者が労働者に過重な労働を強いたとしても、何の賠償責任も問われないことになり、過重労働を放置しかねない」と批判。労働問題の専門家で関西大経済学部教授の森岡孝二さんも「司法は医療現場の実態を認識していない」と疑問を投げ掛ける。

 医師不足で、勤務医に過重な負担が掛かり、耐えきれず病院を去っていく「立ち去り型サボタージュ」が後を絶たない。医師がいなくなれば、診療科がなくなり、病院が立ち行かなくなる。こうした現象が日本各地で“ドミノ倒し”のように広がり、患者が必要な医療を受けられなくなる悪循環を招いている。

 問題解決には、労基法の徹底が欠かせないが、松丸さんは「一気に適用すると、医師が足りず、通常の医療が回らなくなる。しかし、このままでは、勤務医がもたないから、壊れるのは、医療が先か、医師が先かとなる。それほど日本の医療は深刻な状況だ。現状の医療費削減政策は、国民にとって、どんどん悪い方向へ向かっている。改善には、医療費を上げ、医師を増やし、医師の健康や命を守ることが欠かせない。それが、患者の命を守ることにつながる。今の医療や医師の勤務条件を改善するためにどうすべきか、早急な合意づくりが求められている」と強調している。


更新:2008/10/23 12:54   キャリアブレイン


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