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_ニニライン

20081023Thu

7R:乱入する家族

母には物件探しのことは伝えていた。母は突拍子もない思考と行動力の持ち主だけど、子どものすることには基本ノータッチだ。物件探しに関しても「あっそ」と昭和天皇なみの反応だった。少なくとも表向きはそういう気の使い方をできるひとだ。

一方、父は、というか父は、今年の夏、ずっと所在不明だった。いや、所在はわかるけど関わり合いたくなかった。定年後、嘱託扱いになっても俺が俺が俺が一番この仕事を知ってるんだ出来るんだ愛してるんだと酒を飲んで泣いて大騒ぎした父は「もう今までどおりの権限はないんです」とかっての部下でいまは上司に諭されたことに腹を立て、寝泊りできる仕事場にずっと立てこもっていたのだ。マジで!母は黙々と週末ごとに洗濯や食事の世話に通っていたらしい。マジで!

いずれ完全に定年になった父がこのまちに帰ってくるかと思うと本当に怖い。一家心中という言葉がシャレにならないひとだからだ。父親に皆殺しにされた家族のことを、近所のひとが「家族仲はとても良かったのに」と語ったりするけど、そりゃそうだよ、仲良くしてご機嫌とらないと殺されるんだから。それでも俺が死んだら家族がかわいそうだからと殺されるんだけどさ。

物件探しのなかで、私の地理的な絶対条件は、父が裸足で包丁持ってやってこれない距離であることだ。実家のそばなんて恐ろしくて住めない。とりあえず父が酔っ払ってシャツとパンツ一丁で犬の散歩をしていた範囲はアウトだ。

父は犬を散歩させるとき夜中でもリードを外していた。涙ながらに注意して返ってきた言葉は「あいつ(←犬のこと)は・・・、絶対、俺のところに戻ってくるんだよ・・・」。私、気絶。犬は家族全員が留守だったとき血を吐いて死んだ。老衰だけどね。

何だか書けば書くほど呪いのようになっていくな。それでも恐ろしいほど私を私であらしめているのは父であることを私は知っている。このひとが自分の父親なんて信じられないと思ったことは一度もない。私はずっと父とは別の人間になろうと父を凝視してきた。私は死ぬときに夫でも子どもでもなく父のことを思い出すだろう。いまはまだそんな気がする。

久しぶりに同人誌なみの青臭い文章を書いてしまった。これこそ身内に見られたら即死するがな。そんなわけで秋風の吹く頃、ようやく父が実家に一時帰宅した。帰宅すると母から私たちの物件探しの話を聞きつけ、例の完成待ち物件を見に行ってきたそうだ。

そりゃ、私も不動産屋の案内とは別にこっそり様子をうかがいに行ったことはありますよ。でも、父は作業中の工事関係者に「ここ、娘夫婦が買うかもしれないから見にきたんだよ」と堂々すぎるほど余計なカミングアウト。だから私を後ろから刺せるのは父だけだって話よ!

でも、その日はもっと衝撃的な言葉があった。それは夫に向かって放たれた。

「おまえは俺の家が欲しいのか」

前後の会話から父の発言を補足すると、私たちが探しているのは35坪から40坪くらいの土地に建つ4LDKの建売住宅、すわなちここ(私の実家)を意識しているんだろというわけだ。おい!おい!安い建売ってのはどれも土地はせいぜい40坪で間取りは4LDKで、いらなくても2階にトイレが付いてんだよ!!

つーか、バブル期の住宅ブームにいきおいで購入したけど、すっかり飽きてメンテナンスもロクにしてないボロボロでヤニだらけでゴミだらけの築20年近くになるこんな家なんかタダでもお断りだっての。更地にしてもいらんわ。日当たり悪いし。

もうひとつ卒倒した父言葉。

「頭金を援助してやってもいいんだぞ」

自分の墓代と葬式代の貯金もない人間が上から目線でなに言ってんだ!私たち夫婦はね、結婚するまで相手を警戒して自分の貯金額を決して明かさず、入籍してから互いの貯金額を告白しあったら、ほぼ同額ためこんでいたデスティニーズな守銭奴なんだからね!はした金で恩を売られても買いません!

父が頭金にこだわるのは自分が頭金なしで住宅ローンを組んで返済が大変だったからだそうだ。昔だから金利が7パーセントとかの時代ですよ。いるんですね本当に、背中にカチカチ火をつけられても泥舟に乗りこむタヌキみたいなひと。そんな実家のローンの残債は祖母が土地を処分したとき肩代わりしてくれました。それで父の浪費癖にさらに拍車がかかったのですが、めでたしめでたし。

ちなみに「物件いくつぐらい見た?」と尋ねると「俺はたくさん見た」と答えるわりに具体的な話は2軒しか出てこないという謎もある。

そんなわけで、久しぶりに会った父のおかげで、シロメ氏の催眠術から目が覚めたのか、完成待ち物件も何だかなという状態になったのでした。


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