幼稚園くらいの記憶。
前後は忘れた。
忘れたが、私は家で何か悪戯をした。怒られるとは分かっていても悪戯は好き。
とにかくまた何か悪戯をした。テレビのリモコンを隠したのかもしれない、良くやっていたから。
時計の電池を抜いたのかもしれない。
とにかく、母親が凄く怒った。
怒って私の頭を叩いた後、口を聞いてくれなくなった。
私は叩かれて泣いている。自分が悪い。
母は私より大切にしている白い犬のぬいぐるみを抱き締めて歌を歌っている。
私は泣きながら母に近づく。ぬいぐるみの代わりに抱き締めてもらおうと腕を触ったら振り払われた。
悪戯をした自分が悪いんだと頭の片隅でぼんやりと思ってる。
それでも抱き締めて欲しいから、ぬいぐるみを抱き締める母の腕に縋り付く。
突き飛ばされて尻餅をついた。
母はずっとぬいぐるみを抱き締めている。
私は無視をされてずっと泣いている。
長い間、一人ぼっちで泣いていた。母はぬいぐるみを置いて台所に降りて行く。
私の方を見ようともしない。足に縋りついたら足で振り払われた。
ずっと泣いていた。

小学三年生くらいの記憶。
父親に算数を習っている。
問題は五年生のもの。六年生の問題に上がれないと母親に殴られる。
公倍数と公約数が分からない。
何度も同じところを聞きなおす。
三度目に聞き直したら父親が切れた。
問題集を投げ捨てられ髪を鷲掴みにされる。
ペン立てからアイスピックを取る。父親のペン立てにはカッターや鋏も入っている。
アイスピックの先が左目のすぐ前にある。
「何回間違えたら気が済むんや！聞いてないんやろ！」
がなりたてる声が鼓膜をがんがん揺さぶる。
父親の腕がぶるぶる震える。
眼球にアイスピックが突き立てられようとする。
黒目のすぐ前でアイスピックの銀色が光っている。
流石に母が止めに入った。
激昂した父は母を振り解き、私の目を潰そうとする。
私は激しく泣いている。勉強が出来なくてごめんなさいと金切り声で叫んでいる。
騒ぎを聞きつけた祖母が階段を駆け上がってきた。
状況を理解した祖母が父の手から私を引き剥がそうとする。
「そんなんしたらこの子の目が見えへんようになってまう！」
「できへんこいつが悪いんじゃ！」
父が叫んだ。
「目が潰れたら私が世話せなあかんやん！用事増やさんとって！」
母の声で父はやっと私を放す。
父はまだ怒りに顔を真っ赤にして震えている。
私は祖母に抱き締められて煩いくらいに泣いている。