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NIKKEI NET

社説1 地域金融への資本注入は再編も念頭に(10/23)

 地方経済の不振と米金融危機のあおりで、地域金融機関が厳しい経営環境にさらされている。政府は予防的な公的資金注入を可能にする金融機能強化法を復活させる。信用不安や貸し渋りを防ぐ地域金融の安全網づくりは急務だが、その際は再編を強力に促すなど、金融健全化の路線と矛盾しない制度にすべきだ。

 金融危機は地域経済を支える金融機関にも逆風となった。株式を上場する地方銀行と第2地方銀行の88行のうち、過半数の50行以上が2008年9月中間期業績予想の下方修正を発表した。最終赤字の見通しを表明したのも十数行に上る。

 その背景は2つある。まず金融機関自身による運用環境の著しい悪化だ。資金運用に困った地銀などが高利回りの米リーマン・ブラザーズ社債や住宅ローン関連の証券化商品に手を出し、保有する有価証券の評価損が膨れた。株価の急落も響き、関連の損失計上を迫られている。

 次に地方景気の冷え込みである。企業の倒産や業績悪化に伴い、融資焦げ付きの損失処理や貸倒引当金の積み増しが必要となった。非上場の地銀や信用金庫、信用組合なども経営環境は同様に厳しい。

 政府・与党は今年3月に期限が切れた金融機能強化法を改正して復活させる方針である。金融機関の自己資本が目減りすると、企業への融資を手控える「貸し渋り」が加速しかねない。金融機関の申請に応じて公的資金を予防的に注入し、地域金融の貸し出し余力を保つ。信金や信組の中央機関にも公的資金を注入し、資本増強に活用する。

 同法は04年夏に施行したが、資本注入と引き換えに経営責任の追及や再編を強いられるのを経営者が敬遠し、適用は3年半で2例しかない。検討中の改正案はこうした条件を緩め、合併や再編を促す規定もなくす方向となっている。2兆円近い政府保証枠が残り、現時点では原資の手当ては要らない。

 金融機関の経営不安や信用収縮で地域経済が混乱する事態は避けねばならず、安全網は一刻も早く整えるべきだ。与野党にはその危機意識を共有してもらいたい。

 ただ、再編を促すことなく公的資金注入を認めるのは疑問がある。地域金融機関の数が経済規模に比べて過剰気味になっている根本的な問題が解決しないからだ。資金需要が低迷するなかで注入行に融資増額を強制するのも、金融機関の経営健全化に逆行しかねない。使い勝手に配慮する一方で、一定の規律を堅持する仕組みは欠かせない。

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