麻生太郎首相とインドのシン首相が会談し、政治、経済、安全保障など多面的な分野で協力を拡大していくことを確認した。国際社会で存在感を増しているインドとの関係を大事にすることは日本のアジア外交の幅を広げるうえでも意義がある。
日本とインドが国交を結んだのは56年も前だが、首脳が定期的に会談するようになったのはつい3年前からのことだ。05年4月に当時の小泉純一郎首相が訪印して以来、年1回の首脳相互訪問が定着してきた。両首脳が相互訪問の継続を確認したことを歓迎したい。
日本にとってインドは大切なパートナーだ。インド洋は中東原油の日本への輸送ルートであるシーレーン(海上交通路)の安全確保上重要であり、インドの安定は日本のエネルギー安全保障上、欠かせない。
国連改革でも連携が必要だ。05年の安全保障理事会拡大をめぐる交渉では、日の目は見なかったものの、ドイツ、ブラジルとともに「G4」というグループをつくった仲だ。
経済分野でも、徐々にではあるが関係が深まっている。ただ、アジアで第1位と第3位の経済規模をもつ両国の関係からすれば、インドの貿易相手国として日本が10位、日本の貿易相手国としてインドが27位というのは、協力拡大の余地がまだかなりあるということだろう。
両首脳はインドのインフラ整備や経済連携協定(EPA)交渉の進展、気候変動問題での連携などを盛り込んだ共同声明とともに、安全保障協力に関する共同宣言も発表した。
安保協力はアジア太平洋地域に関する情報交換、東アジア首脳会議などの多国間の枠組みでの協力、防衛対話などを確認したものだ。日本が安全保障に関する協力を明文化したのは、米国以外ではオーストラリアに次いで2国目だ。これまで実践してきたことを文書化したものではあるが、中国にいらぬ刺激を与えないよう運用面での配慮が必要だ。
シン首相は民生用原子力について将来の日本の協力を希望する考えを伝え、麻生首相は「核実験のモラトリアム継続を含め約束と行動をしっかりしてほしい。さまざまな要素を考慮する必要がある」と答えた。
核拡散防止条約(NPT)に非加盟のインドを特例扱いにして核燃料や核技術を提供する米印原子力協力協定が発効したが、これはNPT体制を形骸(けいがい)化させ国際的な核軍縮に逆行するものだ。北朝鮮に核廃棄を迫る6カ国協議の論議にも悪影響を及ぼすことが懸念される。麻生首相が今回、原子力協力の具体論に踏み込まなかったのは当然である。
「軍縮・不拡散」は日印の安保協力共同宣言にも盛り込まれている。日本はインドの核実験放棄を強く迫っていくべきだ。
毎日新聞 2008年10月23日 東京朝刊