またも悲劇が繰り返された。妊娠中に脳内出血を起こした東京都内の女性が都立墨東病院など七つの病院に受け入れを断られ、最終的に搬送された同病院で手術を受けたが、3日後に死亡した。
都から24時間態勢でリスクの高い妊婦と新生児のトラブルに対応する「総合周産期母子医療センター」に指定されていた墨東病院がなぜ、妊婦を受け入れなかったのか。まず、徹底的な調査を行って事実関係を明らかにし、その上で早急に対応策を立て直してもらいたい。
体調不良を訴えた女性がかかりつけの産婦人科医院に救急車で運ばれた。脳内出血の疑いがあったため、医師は墨東病院に受け入れを要請した。しかし、当直の産科医が1人しかおらず、受け入れを断られたという。その後、同病院から紹介された他の病院などに連絡したが、断られた。このため、かかりつけ医師が再び墨東病院に連絡、病状が悪化したと判断した墨東病院は当直以外の産科医1人を呼び出し、帝王切開と脳の手術を行った。胎児は無事に生まれたが、女性は亡くなった。
墨東病院によると、常勤の産科医に退職者が出て現在は4人に減り、慢性的な不足が続いていた。このため土、日曜と祝日の当直医を本来の2人から1人とし、救急搬送の受け入れを制限し周辺病院に協力を求める文書を配布していた。
妊婦の死亡と搬送が遅れたことの因果関係が解明されていない段階で、断定的なことは言えないが、今回の問題の背景には、救急医療のあり方や地域の医療機関のネットワークの整備、そして産科医不足という問題があるという点については指摘しておきたい。
救急搬送の受け入れ拒否の問題が起きるたびに、対応が叫ばれていたが、今回は東京でも同じことが繰り返された。総務省消防庁によれば、妊婦の受け入れ拒否は大都市圏で多発している。医療機関が多いはずの大都市で、なぜ拒否が起きるのか。墨東病院と周辺地域の病院との協力体制についても検証し、医師のネットワークの再点検を行い、地域住民の不安を取り除いてもらいたい。
産科医不足も深刻だ。墨東病院の場合、当直医が2人そろっていれば、受け入れができたとみられる。「総合周産期母子医療センター」の指定病院が産科医不足で妊婦の受け入れを制限する事態になっていたというのだから驚きだ。
過酷な勤務状況や、常に訴訟のリスクをかかえた産科医は減少傾向にある。結婚や育児などで離職する女性医師も多く、厚生労働省の検討会が医師不足対策の提言を行っている。
医療に対する信頼を取り戻すために、何が必要か。悲劇を二度と起こさないためにも、この問いに答えを出さなければならない。
毎日新聞 2008年10月23日 東京朝刊