白壁にタイル状の黒っぽい貼(は)り瓦が柳並木に映える。江戸時代後期の米蔵を改装した倉敷民芸館は、倉敷市美観地区の象徴的な建物だ。
その静ひつなたたずまいに詩情をそそられた英国の詩人ブランデンが、二階窓から門付近の光景を見て詩を詠んだのは五十八年前のこと。建物自体が一級の民芸品といわれるゆえんだ。
柳宗悦が提唱した民芸運動に共鳴、初代館長だった外村吉之介さんらが内外で収集した民芸品は一万五千点を超える。高価な美術品ではなく、いずれも無名の職人が庶民のために無心で作った日用品だ。そこに簡素で健康的な「用の美」を見いだした。
いま、開館六十周年を記念した名品展が開かれている。李朝時代の異様な迫力の民画や白磁、沖縄特有の鮮やかな色彩の染織品、装飾にも手間をかけた西洋の家具など、収蔵品の幅広さに目を見張る。流麗な編み目が美しい広島県府中市の目籠(かご)などは手仕事の技が光る逸品だ。
民芸館は地域の担い手育成にも力を注いできた。倉敷ガラスや備中和紙、酒津焼、倉敷緞通などを見れば、倉敷の町に民芸の心がいかに根付いているかが実感できる。
大量生産、大量消費社会の中で、人の心をなごませる民芸の思想が再び脚光を浴びつつある。暮らしの中の美を見つめ直す契機ともなろう。