インド洋での給油活動を継続する新テロ対策特別措置法改正案が衆院を通過した。アフガニスタンでのテロとの戦いに日本がどうかかわるか、さらにアフガンの平和と安定に、日本はどう寄与できるか、重大な問題を含んでいながら、低調な論戦だったと言わざるを得ない。
衆院テロ防止特別委員会では、改正案に加えてアフガン本土での民生支援などを盛り込んだ民主党の対案も審議され、民主党から「次の内閣」の防衛相と外務副大臣も答弁者として出席した。しかし、海上自衛隊による給油活動の是非や成果などについて突っ込んだ議論にならなかった。民主党対案についても、与党側は民主党側の答弁と小沢一郎代表の持論の食い違いを突くことに終始した。
民主党議員の質問に、麻生太郎首相が前向きな姿勢を示す意外なやりとりもあった。アフリカ東部ソマリア沖で頻発する海賊被害への対応について、同党の長島昭久氏が「自衛隊艦艇によるエスコートはかなり効果がある。武力行使目的の派遣でなく、現行法の範囲内でもすぐ可能だ」と投げかけた。首相は「こういう提案はすごくいいことだ。検討させてもらう」と応じた。
政府関係者によると、海自の艦艇を海賊対策として公海上に派遣する場合、日本の船舶の護衛に限るなら自衛隊法上の海上警備行動発令で対応可能だが、他国船を守る活動では新法が必要となる。特別委の後、首相は記者団に「二隻が襲われ、日本の船だけ助け、ほかの船は助けないというのは世間では通らない」と述べ、新法の必要性に言及した。
ただ、新法となると、海外での武力行使を禁じた憲法九条との関係や武器使用基準が議論になるのは必至だ。これだけ大きな問題をはらんでいるのに、特別委では本格的な論戦は行われなかった。
改正案は二十二日に参院本会議で審議入りし、二十九日の本会議で否決される見込みで、三十日の衆院本会議で再議決、成立する公算が大きい。改正案を成立させたい政府・与党と、早期の衆院解散・総選挙の環境整備のためとして審議を早めたい民主党の思惑が一致した結果といえよう。
アフガンでは最近、急速に治安が悪化している。米政府は給油継続のほか、アフガン国軍増強のため、少なくとも百七十億ドル(約一兆七千億円)の負担を、日本を含む同盟諸国に要求したと報じられている。情勢が変化する中で、日本ができる効果的な支援は何かを、参院では真剣に議論することが必要だ。
中国の経済成長が急減速した。国家統計局が発表した今年七―九月期の国内総生産(GDP)実質成長率(速報値)は、前年同期比9・0%にとどまった。四半期ベースで成長率が10%を割り込むのは、速報値としては二〇〇五年十―十二月期の9・9%以来のことである。
米国発の金融危機による悪影響が新興国の中国に及んでいることが鮮明になった。高成長を続け、世界経済を引っ張ってきた中国経済が変調を来せば、国際社会を冷え込まそう。
中国国内の混乱も懸念される。成長を続けることが、都市部と農村部の格差拡大による不満をやわらげ、中国社会を安定させるかぎになっている。成長鈍化によってうっせきすれば爆発する恐れが高まろう。
対米輸出の減少で大型倒産が出ている。玩具生産で世界大手の「合俊集団」が今月倒産し、従業員約六千五百人が失業した。多数の従業員は未払い賃金を求めて工場に詰め掛ける事態が起きた。中国政府は最近まで「中国経済は総体として良好」と楽観的な見方を示していたが、危機感を持ち、景気対策に本腰を入れなければなるまい。
先ごろ開かれた中国共産党の第十七期中央委員会第三回総会(三中総会)はコミュニケを採択し、農村部の発展目標について二〇年までに都市部との構造的格差を基本的に解消するとした。農民一人当たりの平均収入を〇八年の二倍に引き上げることもうたった。
総会は「わが国は(都市部と農村部が厳然と区別された)二元構造を改善する重要な時期に入った」と意気込みを強調したが、肝心の経済成長がさらに鈍化すれば大胆な農村改革は困難になろう。胡錦濤指導部にとっては試練だ。経済政策に万全のかじ取りが求められる。
(2008年10月22日掲載)