中国製の冷凍インゲンから高濃度の殺虫剤成分が検出された。今年1月に冷凍ギョーザへの農薬混入が発覚、9月の化学物質メラミンの粉ミルク混入はピザやたこ焼きまで波及した。気づけば身の回りは中国製品ばかり。果たして中国製なしで暮らすことはできるのだろうか。【國枝すみれ】
試練は起床直後から始まる。朝食は牛乳をかけたシリアルとヨーグルトだ。
シリアルは、トウモロコシ、大麦、小麦などを原料としている。日本ケロッグ(東京都新宿区)に電話をかけて聞いてみた。「中国製品は入っていませんか」
広報の女性が丁寧に回答してくれた。「すべてのシリアル製品を調べました。ハチミツ、黒大豆、ビタミン類として添加されているナイアシンが中国産です」。私の食べているシリアルにはナイアシンが添加されていた。
次は明治ブルガリアヨーグルト。明治乳業(同江東区)の説明は「中国産の牛乳は使いません。持って来ても日持ちしませんから」
いつも飲んでいる伊藤園(同渋谷区)の「充実野菜 緑黄色野菜ミックス」。電話を取った広報の女性は「ウェブサイトをご覧ください」。指示に従って検索すると原料の野菜20種、果物5種の原産国がすべて表示された。オーストラリアやアメリカという農業大国のほか、チリ、ポーランドといった国まで並ぶが、中国産はなかった。
新聞記者は昼も夜もほとんどが外食だ。一番世話になっているのが会社の地下にある食堂街。そば店の店長は「私も知りたかったんです」と話し、一緒に食材を調べてくれた。山菜とキノコミックスと書かれた袋を手に取って「製造業者は日本ですが原産地は中国ですね」。ワカメと里芋の袋には原産地が書いていない。「使っている側も分からない部分があるんですよ」
そして肝心のそば粉。同店のそばはそば粉65%、小麦35%の割合だ。そば粉は中国産と国産のブレンド。「うちはもりそば240グラムほどで530円。国産で作ったらこの半分の量で700~1000円ですよ」と店長。
国産のそばは全国で使われている23%に過ぎず、輸入の8割は中国からなのだ。実験1日目の夜にけんちんそばを食べてしまっていた……。
中華料理店にも行ってみた。勤務歴40年の料理長は「中国産の野菜はサヤエンドウとニンジンだけ。中国産は日持ちしないからかえってコスト高なんだ。肉も中国以外の外国産」と説明した。ウズラの卵、ザーサイ、キクラゲ、タケノコなどの缶詰類も中国産だという。
中華料理店は中国から食材の多くを輸入していると思われがちだが、同店では全体の2割程度。料理長は「スキャンダルが中華業界全体に影を落としている」と心配顔だった。
中国は日本の最大輸入相手国だ。06年、中国からの輸入は13兆7840億円で、日本の全輸入の約20%を占めた。衣類、電算機類などがほとんどだが、農水産物も1兆2232億円に達する。日本の食料自給率は約40%。国産にこだわるのはそもそも無理なのではないか。
しかし、「輸入食品の真実!」(宝島社)を書いた食料問題研究家の小倉正行さん(55)は「国産。できれば地産地消が理想」と言う。「中国は農薬の管理がずさん。闇流通している。経済格差が拡大して農村地域が疲弊し、農民は高く売るために何でもするという構造がある。だから安易に農薬を使う」
例えばショウガ。分解しにくく人体に蓄積しやすい有機塩素系農薬BHCの使用を日本は禁止しているが、中国では収穫後に虫よけとして噴霧していたという。小倉氏によれば、国内で流通しているショウガの49%、ハチミツの94%、干しシイタケの67%、ワカメの43%、アサリの54%、漬物原料の39%、コンニャクの33%が輸入で、ほとんどが中国産だ。
小倉氏に注意された。「立ち食いそばはだめですよ。すし屋に行ってもガリと貝類はだめ。ウナギも、カップラーメンなどに入っている乾燥野菜も全部だめですよ」
自己防衛のためには外食せず、加工食品を食べず、自炊するのが一番だ。しかし「家ではお茶しかいれない女」として友人に知られている私に何ができるのだろう。
スーパーに行った。クリご飯ならむきグリを炊飯器に入れるだけと手を伸ばしたが、中国産と分かりあきらめた。
卵焼きならできる。卵は95%が国産だから安心だ。ロースハムは? 産地が書いてない--。だんだんチェックが面倒になり、買い物かごに放り込む。そもそも日本でも次々と食品偽装が明らかになっている。国産と書いてあっても信用できるのだろうか。
育ち盛りの3人の子どもを持つ姉に意見を聞いてみた。「自分で国産材料を買って作ってみれば分かる。加工食品のギョーザや春巻きは安すぎる」。姉の使う生協では最近、すべての食品に生産地と加工地が明記されるようになったそうだ。「中国産ニンニクは100円だけど、青森産は298円。ケチャップの中身の一部が中国産トマトだったからやめて長野県産にしたら、100円高くなった」。膨らむ食費は当然、家計を圧迫する。姉は「国産で一番安いものを買う。選択の幅がなくてわびしい」と嘆いた。
食べ物だけではない。100点ほどのジャージーが並ぶスポーツ量販店で片っ端から表示をチェックしていった。「あっ、日本製!」。たった一種類だけ中国製でないジャージーを見つけた。説明書きによれば、日本企業が開発した汗を吸収する特別な繊維が使われている。運動靴も9割が中国製で、残る1割がベトナム製だった。
電器量販店に立ち寄る。象印の3リットル入り湯沸かしポットが7100円。安いと思ったら中国製だ。日本製は1万4800円。いままで通りやかんで湯を沸かすか、と思い直した。
もしやと思い、この記事を書いているパソコンをひっくり返す。日本製だった。だが常用しているパソコン入れ、電子辞書、毎朝コーヒーを飲んでいるマグカップも中国製……。やはり中国製品なしの生活は不可能だ。
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(重量ベース・農林水産省調べ)
1965年度 2006年度
米 95% 94%
イモ 100% 80%
卵 100% 95%
豆 25% 7%
野菜 100% 79%
果実 90% 38%
肉 90% 56%
牛乳・乳製品 86% 67%
魚介類 100% 52%
油脂 31% 13%
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毎日新聞 2008年10月22日 東京夕刊