通しのA、B、加古川本蔵に焦点をあてたC、若手主体のDの4パターンに分けての上演だ。小さな劇場で大作に挑む趣向が楽しく、臨場感に富む充実した舞台となった。
Aは「大序」から「城明渡し」まで。勘太郎の若狭之助に正義感からの憤りがうかがえた。判官の勘三郎が橋之助の師直に挑発されていく姿に無理がない。「切腹」で由良之助の仁左衛門が「委細」と胸をたたく姿に、すべてを引き受けた大きさが出た。孝太郎の顔世が落ち着いており、松之助の伴内が好演。
Bは「五段目」から「引揚げ」まで。勘三郎の勘平に、掛け違った男の哀れさが出た。孝太郎のおかるは「七段目」に勘平を思ういちずさが感じられた。仁左衛門がすべてをのみ込んだ由良之助の懐の深さを見せ、橋之助の平右衛門は忠義心にあふれる。
Cは仁左衛門の本蔵を軸に「大序」から「九段目(山科閑居)」まで。弥十郎の師直に嫌みさと構えの大きさが出た。橋之助の若狭之助は気短さをにじませ、勘太郎の判官が端正だ。「桃井館」があることで、本蔵一家と力弥(新悟)とのかかわりがよくわかる。「表門進物」「松の間」に仁左衛門が出るのが観客への“ごちそう”だ。
「山科閑居」では、仁左衛門が娘の小浪への親心をよくうかがわせた。七之助の小浪が初々しく、勘三郎の戸無瀬は情が細やかだが、やや世話味が強いか。橋之助の由良之助がどっしりとした落ち着きを見せた。お石は孝太郎。26日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年10月22日 東京夕刊