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歌舞伎:芸術祭十月大歌舞伎(歌舞伎座) たまらなく愛らしい芝翫の藤の精

 昼の最初が「重の井」。姫君の乳母としての気丈さと、生き別れたわが子の三吉(小吉)と再会したときの心の揺らぎ。福助が重の井の二面を描いた。小吉がしっかりとしている。

 松緑の軽妙な「奴(やっこ)道成寺」に続き、「魚屋宗五郎」。感情を抑えていた宗五郎が、酒を飲むや酒乱ぶりを発揮して妹の奉公先の旗本家に押しかけ、酒がさめると途端におとなしくなる。町人の宗五郎の威勢の良さと悲しみを菊五郎が活写する。玉三郎のおはま、菊之助のおなぎ、権十郎の三吉、団蔵の太兵衛、松緑の磯部、左団次の浦戸と周囲もそろう。

 最後が「藤娘」。ほれた男を松に見立て、娘が酒に酔っていく様が、まざまざと眼前に広がる。たまらなく愛らしい80歳の芝翫の藤の精だ。

 夜の最初が「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」の「十種香(じゅしゅこう)・狐火(きつねび)」。玉三郎の八重垣姫は簑作(菊之助)との取り持ちを、上手屋台に行かずに中央の舞台で濡衣(福助)に頼む文楽に近い演じ方。簑作への思いを通すためなら死すら辞さない強い覚悟が表れた。菊之助は出の瞬間から実は勝頼である簑作に成りきった好演。福助に情がある。団蔵の謙信がいい。

 次が「直侍」。菊五郎の直次郎からは、逃亡者の憂いと御家人崩れの色男の甘さの両方が立ち上る。丈賀(田之助)や丑松(団蔵)とのやりとりに優しさがにじむ。菊之助の三千歳が魅力的だ。権一、徳松のそば屋夫婦がいい。最後が福助のあでやかな「英(はなぶさ)執着獅子」。26日まで。【小玉祥子】

毎日新聞 2008年10月22日 東京夕刊

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