西日本新聞

台湾映画界に救世主 日台の恋描く「海角7号」ヒット ロケ地巡りにも人の波

2008年10月07日 12:49
台湾映画「海角七号」の大ヒットで、にぎわいを見せる台北市の映画館
台湾映画「海角七号」の大ヒットで、にぎわいを見せる台北市の映画館
 ハリウッド映画に押され、人気低迷が続いていた台湾映画に救世主が現れた。日本人と台湾人の恋を描いた「海角7号」(魏徳聖監督)が興行収入2億台湾元(約6億6000万円)を超え、台湾映画では空前のヒットを記録。映画館に足を運ぶ人が増え、ロケ地は観光客でにぎわうなど社会現象を起こしている。 (台北・小山田昌生)

 台北市の映画街、西門町。「海角7号」上映中の映画館には、8月下旬の公開から1カ月半過ぎた今も行列ができている。台湾の人々の間では世代を問わず、「海角7号見た?」があいさつ代わりになっているという。

 物語は60年前に敗戦で台湾を引き揚げた日本人男性が台湾人の恋人につづった7通の手紙を、ミュージシャンの夢破れた若者が手にしたことから始まる。手紙に記されたあて先の戦前の住所がタイトルだ。全編を通して音楽と笑いがあふれ、時に涙を誘う。

 作品の評判はネットの掲示板を通じて若者に浸透、それをメディアが報じて、観客の世代も広がった。ロケ地となった台湾最南部の恒春半島には観光客が押し寄せ、女性主人公が泊まった海辺のホテルは連日満室。劇中で使われた先住民族の首飾りや地酒も売り切れが続出しているという。

 大スターも出演せず、制作費も約5000万台湾元と低く抑えたこの作品が人気を呼んだ理由について、映画評論家の王長安氏は「難解で重い台湾映画のイメージを全く変えたことが大きい」と語る。1990年代、台湾映画の芸術性は国際的に評価されたが、興行面の成績には結び付かなかった。「海角7号」は地方の庶民の日常を描き、観客には親近感がある。

 過去と現代の日台の心の触れ合いを描いたこともヒットの一因という。「日本の教育を受けた高齢の世代には懐かしく、日本の流行文化に親しんでいる若者にも受け入れやすい」(王氏)

 作品には日本人女優の田中千絵さんや奄美大島(鹿児島県)出身の歌手、中(あたり)孝介さんも出演。せりふは中国語と地元の台湾語、日本語が入り交じり、台湾の多元文化を反映している。

 同作品は9月のアジア海洋映画祭(千葉市)でグランプリを受賞。今月の韓国・釜山国際映画祭にも出品され、国際的にも注目を集めている。日本での公開は未定。

 台湾映画に対する投資意欲は高まり、行政院(内閣)新聞局による新たな映画補助金制度も発足した。「『海角7号』の成功は台湾映画発展への転換点になるだろう」と王氏は期待している。


=2008/10/06付 西日本新聞朝刊=

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