食料を確保せよ! イギリス・持続可能な農業をめざして

BS1 10月18日(土)午後10時10分から11時00分
BShi 10月25日(土)午後4時00分から4時50分
食料を確保せよ!イギリス・持続可能な農業をめざして

食料自給率40%の日本はいま、大きな曲がり角を迎えている。未曾有の食料高騰。汚染米や汚染ミルクに象徴される食の安全の喪失。世界各国は安心できる自国産の食料の確保に凌ぎを削っている。こうした時代の農業の生き残り策を模索するなかでヒントとなるのが、第二次大戦前の食料自給率30%台を70%にまで高めたイギリスである。イギリス農業の根幹は、農家の収入を保障する「直接支払い」。だが、最近では、単なる食糧生産基地としての価値だけではなく、環境や国土保全の観点から、独自の補償が行われている。その一方、徹底した大規模集約化が進み、小規模農家は厳しい状況に置かれている。また食料の確保をめぐっては、遺伝子組み換え作物を容認するかどうかも議論が分かれている。これ以上の食料高騰を防ぐ意味からも容認すべきだという声もあれば、価格が高くてもむしろ有機農業にシフトすべきだという声もあり、二極化している。
今回の地球特派員は、ジャーナリストの江川紹子さん。イギリスの食料自給率アップの秘密は何か、そして日本の農家が直面している後継者不足や耕作放棄地などの課題をどう乗り越えようとしているのか、現地で取材する。スタジオでは、食料高騰時代の持続可能な農業に向けた戦略的な対策や保護のためには何が必要なのか、日本の農業の再生に向けて議論を深めていく。

キーワード 直接支払い

政府などが農家に直接、支払う補助金の制度。イギリスの「直接支払い」はEUの「共通農業政策」に採用され、時代に応じ形を変化させながらEUの農業保護の根幹となっている。農家が安定した経営を行うため「財政負担」によって所得を支えるのが特徴。日本の保護は「消費者負担型」と呼ばれ「関税」などで高い価格を維持し、消費者が払った農産物への支払いで農家の所得を支える仕組みが中心となっている。イギリスの農業保護は、農産物の生産量向上から農村振興などの目的へ比重を移しつつあり、自然環境や国土の保全、伝統的な農業や景観に対する補助もこの「直接支払い」で行われている。

出演者

特派員江川紹子

江川紹子ジャーナリスト

工業や金融の国というイギリスのイメージが根本から変わりました。実は、どこへ行っても広大な農地が広がる農業の国なんです。農村には、新鮮で美味しい食べ物と伝統的な価値観、文化がありました。それを支えているのが、地域の人々とイギリスの農業保護の伝統。美しい景観を自国の文化ととらえ、環境や地方の共同体を公共の財産として守るための補助金が国から支給され、農家を助けています。農地を維持し、農業を支える仕組みもありました。そんな農業国イギリスの姿を取材してきました。ぜひご覧下さい。


スタジオゲスト金子 勝

金子 勝慶応義塾大学教授

今、世界を戦後最大の金融危機が襲っております。その影響を受けて日本はついに貿易赤字に陥りました。その一方で、石油も食料も依然高停まりしたままです。この国は巨額の貿易黒字を背景に安いエネルギーと食料を買って成り立ってきました。そのやり方が根本的に揺らいでいると言えます。ところが日本の食料自給率はわずか40%、日本の農業は疲弊しているように見えます。そこで今回注目するのはイギリスです。食料自給率を飛躍的に高めてきたイギリスから何を学び、日本独自の仕組みに生かしていくのか。現地の取材から考えてみたいと思います。


スタジオゲスト柘植徳雄

柘植徳雄東北大学教授 / イギリスやEUの農業政策を長年研究。

イギリスの平均の耕地面積はEUで第2位。フランスやドイツよりも大きく、大規模な農業が発達した国です。その農業保護は、日本とは随分違って、税金で所得を保障するという「直接支払い」が中心。およそ5400億円という財政負担で農家を支えるこの仕組みが、非常に大きな役割を果たしています。この「直接支払い」は、その環境保護の条件を義務づけることなどによって、環境保全型農業を推進するというようなこともできます。手厚い保護によって自給率を上げることに成功し、その上で環境にシフトしてきたイギリス。どうやって農地を保全しているのか、その戦略に注目しています。


スタジオゲスト武本俊彦

武本俊彦衆議院 農林水産調査室 / 農林水産省食糧部長などを歴任。日本の農政と国際農業交渉に詳しい。

WTOのドーハラウンドは決裂しましたが、関税などによって高い価格を維持する、いままでの日本の農業保護のあり方は、大きな曲がり角を迎えています。「直接支払い」の議論も高まっていますが、日本の農業は、平均で一戸あたりの耕地面積が1.9ヘクタールと諸外国に比べきわめて小規模なのが特徴です。どうやって生き残っていけるのか、複合化・多角化によるリスク分散や、安全性や環境という付加価値をつけるなどの差別化が重要で、これはイギリスも同じです。チャレンジ精神を持ったいろいろな人が農業という産業に入れる形にすることが結果的に自給率を高めることになると思います。



最新の放送予定


おしらせ

10月16日(木)
「食料を確保せよ!〜イギリス・持続可能な農業をめざして〜」のページに、出演者からのコメント、キーワード解説・予告動画を追加しました。
地球エコ2008