◆産廃撤去のための議連発足
「若手議員による廃棄物不法投棄撤去を推進する会」という議員
連盟が11月に発足した。不法投棄は全国各地で大きな社会問題
になっている。そこで若手議員が立ち上がった。政界で若手という
場合、年齢ではなく当選回数を指すことが多い。この会には衆議院
当選1〜2期、参議院当選1回の自民党議員が参加している。
代表には奥谷通・前環境大臣政務官(衆議院2期)、幹事長に木村
太郎衆議院議員(2期)、事務局長に松野博一衆議院議員(1期)
が就任し、私も創立メンバーの一人になっている。現在までのとこ
ろ27名の議員が入会している。 これまでにも廃棄物問題に関する議員の会はあるにはあった。
だがそれは関係業者との意見交換などを狙いとするものだった。
今回発足したこの会の特徴は、力点を不法投棄の撤去に置いた
点である。
◆蓄積される不法投棄 平成12年度に不法投棄された産業廃棄物は全国で40万3千
トンに上った。前年度よりはやや減ったとはいえ、それでも膨大な
量である。ちなみに県別に見ると私の住む千葉県が全国最悪で
12万1千トンになっている。しかもその多くは県外で排出された
ものが越境してくるのだから質が悪い。 こうした不法投棄をなくすためには様々な側面からの取り組み
が必要になってくる。まず罰則の強化である。実はこれはかなり
厳しくなってきた。不法投棄の罰則は平成3年までは「3月以下
の懲役又は20万円以下の罰金」だったのに対し、現在では「5
年以下の懲役又は1000万円以下の罰金」になっている。また
監視・パトロール体制の強化も必要だろう。これらの施策によって
今後の不法投棄を未然に防止することが肝要である。 それに加えて過去の不法投棄をどう処理するかということも重
要な課題である。全国各地に不法投棄の山があり、○○富士な
どと嘆息まじりに呼ばれている実態がある。千葉県を例にとると、
首都高速湾岸線で東京から千葉に入り、千鳥町出口を過ぎると
まもなく左手に不法投棄の山「行徳富士」が目にとまる。このよ
うにすでに捨てられてしまった産業廃棄物の撤去も必要である。 平成12年度の不法投棄40万3千トンのうち原状回復に着手
されたものが16万3千トンである。逆にいえば残る24万トンは
未処理のまま放置されている。つまりこれだけの量が蓄積され
ていくことになる。昨年6月に環境省が全国のゴミの山の実態
を調査した。それによると問題になっている廃棄物は全国に
1261万トンもある(うち産業廃棄物1214万トン、一般廃棄物
47万トン)。ちなみにこの統計には量が不明なゴミの山は含ま
れていないので、実際の投棄量はこれを大きく上回ることは確
実である。 産業廃棄物の撤去はガレキなどで1トンあたり1〜1.5万円
とされる。有害物質が含まれていれば2〜3万円になる。つまり
全国の不法投棄を一掃すると数千億円の費用がかかることは
間違いない。
(注)この稿を書き上げた後、平成13年度の産業廃棄物
の不法投棄量が発表された。
12年度よりは大幅に減少し全国で24万2千トン、千葉県
は4万8千トンだった。
1 |
千葉県 |
47731 |
2 |
岩手県 |
36481 |
3 |
茨城県 |
25501 |
(単位・トン)
また24万2千トンのうち原状回復に着手されたものは
14万1千トンである。
◆誰が撤去すべきなのか
さてこうした不法投棄は誰が撤去すべきなのか。撤去費用は
誰が負担すべきなのか。不法投棄で一番悪いのは原因者であ
る。つまり不法投棄に関与した人間が処理するのが当然である。
現在の廃棄物処理法でも投棄者・注意義務違反の排出事業者・
土地所有者などに責任を負わせている。 だが残念ながら原因者が不明の場合がある。もしくは原因者
が明らかでも財力・資力がないこともある。倒産しているなどの
例がこれにあたる。だからといって放っておくわけにもいかない。
産業廃棄物にはダイオキシン、PCB、カドミウムなどの有害物
質が含まれていることが多い。地下水汚染も懸念される。 そういう場合には原因者に代わって都道府県が撤去すること
ができる。これが代執行と呼ばれ、廃棄物処理法第19条に規
定されている。とはいえ都道府県もあまりこれをやりたがらない。
費用がかかるからである。例えば千葉県市原市福増の不法投
棄は県内最大規模であり、今年5月には廃棄物処理法違反で
5名の逮捕者を出しているが、このゴミの山の撤去には約80
億円くらいかかると見込まれている。莫大な出費に都道府県も
尻込みしてしまう。しかも不法投棄の撤去というのはあくまでも
片付けであって、公共事業のように資産が後々まで残るわけで
もない。そこでどうしても消極的になってしまう。本当はこうした
負の遺産をなくすことも大切なのだが、都道府県がなかなか重
い腰を上げないのが実状だった。 ◆不十分な支援策 そこで都道府県を後押しするために平成9年に廃棄物処理法
が改正され、国と産業界が資金面で支援することになった。まず
産業廃棄物適正処理推進センターを全国に一か所設け、ここに
基金を置く。この基金には国と産業界が資金を出す。そして都道
府県が代執行する場合にはこの基金から費用の4分の3を出す
ことにした。これであれば都道府県の負担は4分の1に軽減され
る。そこであまり負担を気にせずに代執行に着手するようになる
だろうと見込んだわけである。ちなみに基金の原資は国と産業
界が1:2の割合で拠出しているので、全体の負担割合は都道
府県が4分の1、国が4分の1、産業界が2分の1ということに
なる。こうした支援が行なわれるのは平成10年6月以降に不
法投棄された産廃に限られている。それでも従来に比べれば
一歩前進したとはいえる。 ところがこの基金への資金の集まりが悪い。現在の残額は9
億円しかない。先の市原市のように一件80億円などというのが
あれば、この基金からは4分の3、つまり60億円の支援が求め
られる。この程度の残額では一か所の産廃撤去にさえ足りない。
実際にこの基金が資金協力をした産廃撤去はこれまでに11件
あるが、小規模なものばかりだったので協力額は計8億円であ
る。これでは全国の廃棄物の原状回復などは夢のまた夢である。 ◆協力不足の産業界 なぜ資金が集まらないのか。産業界が十分な協力をしないた
めである。産業界は平成13年度までは年に数億円ずつの拠出
をしていた。13年度の場合は、建設団体が2.8億円、自動車
工業会・鉄鋼連盟がそれぞれ800万円などで合計4億円であ
る。しかし14年度はまだ資金協力の構えを見せていない。廃
棄物処理法第13条には環境大臣は「基金への出えんについ
て、事業者等に対し、必要な協力を求めるよう努めるものとす
る」と明記されている。環境大臣が産業界に協力要請すること
は法律上の義務なのである。ところが実際には大臣が協力を
求めたことはない。潤沢な資金があるならばそれでも構わない
だろう。だが現実は産業界が躊躇しているために資金不足に
悩んでいるのだ。それならば一層明確に要請すべきなのであ
る。しかもこれは法律に記されていることなのである。にもか
かわらずそれが実行されてこなかったのは、いったいどういう
ことだろうか。産業界に対して過度に遠慮した姿がうかがえる。 そこで私は12月6日の衆議院環境委員会でこの問題を取り
上げた。鈴木俊一環境大臣は私の質問に対して、要請してい
なかったことを認め、「今後、必要があれば事業者等に要請を
してまいりたいと思っております」と答弁した。今後は法律通り、
きちんと産業界に負担を求めていくべきである。また金額も従
来のような年間数億円では足りない。より大きな負担を要求す
べきである。 産業界からの出捐がないと負担は国と都道府県だけにか
かってくる。これはおかしな話である。確かに不法投棄の撤去
は必要である。とりわけ健康に悪影響をもたらす有害物質の
場合は特にそうである。国や都道府県が放置していいわけが
ない。だがそのすべてを税金で処理するというのは筋が違う。
不法投棄者の責任を安易に税金で穴埋めするのはモラルハ
ザードにつながる。やはり多大な産廃を排出している産業界
に一定の負担をしてもらわなければならない。それによって
責任感も生まれ、廃棄物の減量化にも取り組むようになるだ
ろう。まして平成10年6月以前に不法投棄されたものの原状
回復については産業界には負担を求めていないのだ。せめて
法律に明記された10年6月以降分については積極的な資金
提供をしてもらわなければならない。 ◆さらなる法整備に向けて 平成10年6月以降の不法投棄を都道府県が撤去する時は
国と産業界が支援することになっている。支援のための基金
が不足していることは前述した通りだが、少なくとも法的な制
度は整っている。一方、それ以前に不法投棄されたものを撤
去する時の支援策は法律上はない。だが古い不法投棄の方
が量は圧倒的に多い。全国の廃棄物の山1261万トンのうち
平成10年6月以降のものが164万トンなのに対し、それ以
前のものが実に1085万トンと大半を占めている(投棄時期
不明が12万トン)。こちらの対策も急務である。 環境省はこの部分に的を絞った新法「産業廃棄物の不適正
処理に係る原状回復等の推進に関する特別措置法(仮称)」
を来年にも制定したいとしている。また廃棄物処理法の改正
も検討されている。処理しにくい製品を作った製造者には一定
の責任を負わせる方向である。「拡大生産者責任」は時代の
潮流である。歓迎すべき動きといえよう。 廃棄物不法投棄は緊急の課題である。特に国会議員は立
法活動を通じて社会問題を解決するのが仕事である。私自身
も志を同じくする議員と相語らいながら今後ともあるべき法整
備を目指したい。そのために若手議員の会を創立したのであ
る。今まさに我々の責任が問われている。次世代に負の遺
産を残すわけにはいかないのだから。
※私が不法投棄問題を取り上げた平成14年12月6日の
衆議院環境委員会の議事録はこちらをクリック
※最後に「若手議員による廃棄物不法投棄撤去を推進する会」
が鈴木環境大臣らに12月5日に申し入れた提言全文を掲げて
おく。
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