一国の経済がバスタブの湯だとすれば、政府や中央銀行は熱湯や冷水を出して湯加減を保つ蛇口。ところが、アイスランドではバスタブがいつのまにか巨大な海に変わっていた。
過熱した経済によるインフレを抑えようと中央銀行は自国通貨の金利を上げる。今年10月はじめには15.5%にまでなっていた。しかし人々は中央銀行の規制から自由で低金利のまま流入する外貨でローンを組み消費を続ける。世界の金融市場という海のなかで、アイスランドの小さな蛇口は意味をなくしていた。
中央銀行によると、外貨ローン利用はこの4年間で急増。04年1月は家計の借金のうち4.5%だったが、08年には3月の時点で23%に。クローナ暴落で、外貨による借金の重みはさらに増す。
73年まで世界銀行が「途上国」に分類していた小国は、80年代から経済のグローバル化の波に乗ろうと大胆に規制緩和を進めた。舞台が広がり外資も流れこんだ。次々と内外で注目される企業が輩出。06年には専門家らが首相に対し、「国際金融センターとして理想的。さらに条件整備を」という野心満々の提言さえまとめた。
気がつけば1人当たり国内総生産(GDP)は世界トップクラス。07年には国民の幸福度を示すともいわれる国連開発計画(UNDP)の人間開発指数で第1位に輝く。
ただ、その陰で経済は「規制緩和が産みだした巨大な怪物」(ビフロスト大学のエイリクール・ベルグマン教授)と化していた。英国などで自国の人口より多い預金者を獲得したり、日本でサムライ債(円建ての債券)を発行したりして巨額の資金を集めた銀行の資産は合計でGDPの10倍。何か起きれば政府の手に負えない規模に膨らんだ。そこへリーマン・ブラザーズの経営破綻(は・たん)。万事休した。