判決受け小児科医らがコメント―中原裁判
小児科医中原利郎さん(当時44歳)の過労自殺をめぐる民事訴訟の控訴審判決で、東京高裁は原告側の訴えをすべて棄却した。この判決を、有識者らはどう受け止めたのだろうか。小児科医、労働問題の専門家、病院団体の代表らに話を聞いた。(尾崎文壽、山田利和、敦賀陽平) 過重労働問題に詳しい札幌市在住の江原朗さん(小児科医)は、自殺した麻酔科医に対する病院側の「安全配慮義務違反」が昨年5月に大阪地裁で認定されたことを指摘した上で、「今回は認められず残念だ」と語った。のり子さんに対しては、「小児科医の過酷な勤務状況を明らかにし、問題提起してくれた」と謝意を表した。また、小児科の現状について、「3、4人の小児科医で二十四時間体制を維持するのは不可能」と指摘した上で、「医師不足が解消されるまでは、10人程度の小児科医を集めた拠点病院をつくるべき」との改善案を示した。 日本病院会の山本修三会長は「どんな結果になろうが、医療界としては大事な問題で、このまま放っておくことはできない」との認識を示した。その上で、「中原医師の死は、医師不足の中で起こったという見方もできる」として、「労働基準法を守るためには、今の医師数では足りない。法を守れるような仕組みと人数を確保しなければならない」と訴えた。また、「政府の経済財政諮問会議に匹敵する『医療改革委員会』をつくり、現場の医師を入れて大枠の議論をすべきだ」と提案した。 「これ以上、働けますか?」「働きすぎの時代」など、労働問題に関する多数の著書がある関西大経済学部の森岡孝二学部長は、「うつ病を発症させるほどの業務の過重性を認めた半面、医師の心身の変調を病院側が予見できなかったとしており、判決には一貫性がない」と指摘した。また、「電通事件」の最高裁判決(2000年3月24日)を例に挙げ、「過去の判決に照らしても納得がいかない。司法の判断は、医療現場の現実を直視していない」と批判した。
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埼玉県済生会栗橋病院の白髪宏司副院長(小児科医)は、「中原先生が、われわれ全国の小児科を憂えて残してくれた遺書の内容を、裁判所が全くくみ取ってくれなかったことに強い憤りを感じる。判決文に、今後の病院経営に注意を喚起するようなコメントが少しぐらいは入るのではないかと期待していたのだが」と厳しく批判した。また、「医療者の心身が健康でなければ、いい医療は提供できない」と述べた。
原告の妻のり子さんには、「多くの勤務小児科医が落胆したことは想像に難くないが、もし上告されるのであれば、全国のほとんどの小児科医が味方になるはず」とエールを送った。
更新:2008/10/22 22:39 キャリアブレイン
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