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妊婦死亡:検索ネット機能せず 「可能」3病院も拒否

 妊娠中に脳内出血を起こした東京都内の女性(36)が都立墨東病院(墨田区)など7病院に受け入れを断られた後に死亡した問題で、インターネットで受け入れ先が探せる都の「周産期医療情報ネットワーク」が機能していなかったことが分かった。ネットの表示では3病院が受け入れ可能だったが、実際にはいずれも受け入れ要請を拒否していた。システムが機能していれば、女性はより早く搬送された可能性もあり、都は詳しい経緯を調査している。

 周産期医療情報ネットワークは、リスクの高い妊婦に対応する周産期母子医療センター(都内22カ所)と都、消防をつなぐシステム。緊急の場合に患者の受け入れが可能なセンターが一覧できるようになっている。

 都によると、死亡した女性は4日午後7時ごろ、下痢や吐き気、頭痛などを訴え、救急車で江東区のかかりつけの産婦人科医院に運ばれた。主治医が近くの墨東病院に受け入れを要請したが、産科の当直医は「土曜日のため当直が1人しかいない」と説明。主治医から「受け入れ可能な医療機関を教えてほしい」との依頼を受けた当直医は周産期医療情報ネットワークを検索し、受け入れ可能の表示があった▽東京慈恵会医科大病院▽慶応大病院▽日本赤十字社医療センター--の3病院を紹介したという。

 しかし、主治医がこの3病院に電話をしたところ、いずれも受け入れを拒否。主治医はこのほか▽東京慈恵会医科大青戸病院▽日本大板橋病院▽順天堂大病院--に電話をしたが、受け入れられなかったという。

 厚生労働省によると、コンピューターで周産期医療情報を共有化するシステムは昨年1月現在、39都道府県が導入。しかし「(空き病床の)情報の更新が遅い」などの問題を指摘され、今年1~2月の総務省消防庁の調査では、全国の消防本部の53%が「救急医療情報システムを利用していない」と答えた。

 今回の問題でも、病院が情報を更新していなかった可能性もあり、都は「調査している」と説明している。

 奈良県橿原市の妊婦死産を受け、厚労省が昨年12月に行った救急搬送の総点検でも「夜間・休日も空床状況を更新できている」とした自治体は福島、広島県など6県しかなかった。

 ◇都は「脳内出血の疑い伝わらなかった」

 墨東病院を運営する東京都は22日、及川繁巳・病院経営本部経営企画部長らが記者会見した。病院が当初受け入れを断ったことに及川部長は「(女性の主治医から)頭痛があると聞いていたが、脳内出血が疑われるとは伝わらなかった」と釈明した。

 墨東病院は都内に9カ所ある総合周産期母子医療センターに指定されているほか、すべての救急患者を24時間受け付ける緊急救急施設「東京ER」も兼ねる都の拠点病院。しかし産科は医師の退職が相次ぎ、定数9人の常勤医が4人まで減少した。7月から休日当直を1人体制とし、救急受け入れを制限していたという。

 会見で同病院の林瑞成・周産期センター産科部長は「このような問題が起きる危惧(きぐ)はなかったのか」との質問に、「あったが、産科医を目指す人は少ない。医師を増やす努力はしてきたが、本当に残念なこと」と沈痛の表情を浮かべた。【須山勉、清水健二、木村健二】

毎日新聞 2008年10月22日 21時53分(最終更新 10月22日 22時09分)

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