手続き遅れの原因は…異例、裁判官を弁護士が提訴

 「民間人は業務上でも民事責任を負うのに、公務員の裁判官は何ら責任を問われないのはおかしい」。裁判官に損害賠償を求めた異例の訴訟で、原告の広田次男弁護士(いわき市)は、福島地裁が先月出した棄却判決への憤りをあらわにする。

 裁判官を訴えるきっかけになったのは、広田弁護士が代理人となって福島地裁相馬支部に提訴した損害賠償訴訟。同支部は提訴から約8カ月たっても訴訟期日を入れず、仮差し押さえなどの手続きも取らなかったため、その間に被告が得ているマンション賃料などを差し押さえられなかったとして、相馬支部長に賠償を求めた。

 判決で福島地裁の森高重久裁判長は、最高裁判例を引き合いに出し「国家公務員が与えた損害は国が賠償責任を負う。公務員たる裁判官の行為に違法な点があったとしても個人は責任を負わないとするのが相当」との判断を示した。

 判決は、公務員の責任を肯定した場合、公務遂行を萎縮(いしゅく)させ、円滑な国家活動が阻害される恐れが生じるとも指摘。支部長の行為に過失があったかどうかは国家賠償請求訴訟として分離し、今も係争中だ。

 広田弁護士は「民間人には雇用主とともに賠償責任を負わせるのに、公務員には伸び伸びやらせる必要があるとする考えは、平等の原則からみておかしい。官尊民卑の判決だ」と反発。「最高裁判例は承知しており、敗訴は覚悟の上。勝敗よりも問題提起に大きな意味がある」として、最高裁まで争う姿勢を示す。

 提訴の原因となった訴訟では、広田弁護士が4回にわたり地裁相馬支部に上申書を提出し早急な対応を求めたものの、手続きは取られなかった。訴訟は、支部長を提訴した途端、福島地裁本庁に移送され、その直後に第1回口頭弁論の期日指定や仮差し押さえの手続きが取られた。

 広田弁護士は「支部の手続きは何が原因で滞っていたのか。まったく理解できない」と話す。

 法曹界は来年5月に始まる裁判員制度を前に「開かれた司法」を掲げ、裁判の迅速化にも取り組んでいる。約8カ月にわたり訴訟手続きが進められなかった理由は何だったのか。裁判官個人の責任に関して最高裁判例が覆る可能性は低いが、裁判所には、手続きが何で遅れたのかをうやむやにせず原因を明確に示す責任はあろう。
2008年10月21日火曜日

福島

社会



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