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2008年10月22日

◎大拙の遺品寄贈 記念館効果が早くも表れた

 鈴木大拙の顕彰活動を続ける団体とその代表者から金沢市に遺品や書籍などが寄贈され たのは、市が建設を表明した大拙記念館の効果の表われと言える。行政が本腰を入れて大拙を手厚く顕彰する姿勢を示したからこそ、貴重な品々を安心して託す気持ちになったのだろう。

 金沢三文豪の各記念館や県西田幾多郎記念館(かほく市)などをみても、施設整備をき っかけに遺族やゆかりの人たちからの寄贈が相次いで収蔵品が増え、記念館の充実とともに出身地としての訴求力が高まる好循環がみられる。大拙記念館にしても今後、整備計画が具体化すれば、寄贈が増えることが予想され、施設の中身もそうした人たちの善意を受け止められるよう工夫を凝らす必要がある。

 大拙の記念館は九月の金沢経済同友会との意見交換会で、山出保市長が金沢市本多町の 生誕地近くで建設する考えを明らかにした。それから一カ月も経たないうちに寄贈の申し出があったのは、記念館建設の待望論が関係者の間でも強かったことをうかがわせる。

 今回、寄贈したのは大拙の顕彰組織「鈴木大拙先生記念会」とその代表者である真宗大 谷派住職で、大拙が終戦直後に弟子に渡した直筆の書軸をはじめ、著書や大拙選集、禅を海外に広める役割を果たした機関誌など計百八点。一部は金沢ふるさと偉人館に預託されていたが、住職個人の貴重な収集品が大半を占める。

 金沢市は記念館建設へ向け、今年度内に有識者会議を設置し、施設の詳細を検討する。 予定地周辺には中村記念美術館や松風閣庭園などの文化施設もあり、「美術の小径」や「緑の小径」などを整備して散策しやすい空間とする。

 偉人を生んだ土地が記念館の整備によって研究者や情報を集め、その人物の発信拠点と しての役割を果たすのは金沢三文豪などの例をみても明らかである。大拙の場合、世界的な知名度があり、思わぬところから埋もれた遺産や史料が見つかる可能性もある。住まいがあった鎌倉、活動拠点の京都に劣らず、金沢が世界の禅者の生誕地と訪れた人たちが実感できるような機能を整えていきたい。

◎定額減税2兆円 消費刺激へもう一工夫を

 経済対策に盛り込むことが決まった二兆円規模の定額減税は、四人家族で、六万五千円 ほどの減税になるという。約五百兆円のGDP(国内総生産)から見れば減税規模は0・4%程度とはいえ、冷え込みがちな消費者心理を温め、消費を確実に押し上げる効果がある。「埋蔵金」を使った経済対策の柱になるだろう。

 ただ、この減税分が貯蓄に回らぬよう、もう一工夫できないものか。たとえば先ごろ東 京都中央区が発売した、一万円で一万一千円分が買える「買い物券」は半日で一億円分が売れるほどの人気だった。かつての「地域振興券」と似た発想であり、二兆円の減税を消費拡大の「呼び水」にする発想が求められる。

 所得税、住民税から一定額を差し引く定額減税は、高額所得者が有利な定率減税と違っ て、中・低所得者が得をする。景気対策としての効果は限定的との声もあるが、一時的でも家計が潤い、それが消費に回れば、GDPの半数以上を占める個人消費を押し上げる効果が期待できる。欧米や新興国の景気低迷で、外需が期待できない以上、消費刺激をテコに内需を拡大していくしかないのである。

 二兆円の減税額は、米国が行った減税や豪州が計画している大型減税を含めた景気対策 に比べると、十分とはいえない。それでも財政投融資特別会計の中から捻出することに大きな意義があり、埋蔵金活用のお手本のような例になるのではないか。政府・与党が知恵を絞って景気対策に前向きに取り組む姿は、金融市場の動揺を鎮める効用もあろう。

 定額減税の実施にあたって、考えてほしいのは、二兆円減税がすべて消費に回り、最大 限の効果を発揮する仕組みを考えることである。減税で一時的に家計が豊かになったとしても、消費性向は通常六割程度だから、実際に消費に回るお金は一兆二千億円ほどしかない可能性があり、減税効果が半減してしまいかねない。だからこそ中央区が実施した「買い物券」のように、一千万円の支出で、一億一千万円の消費を創出するような知恵がほしいのである。


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